ひと

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ココロ


「ねぇ!ココロって何処にあると思う?」
突然の問いかけに、僕は思わず家へと向かう足を止めた。
問いかけてきたのは、いつも隣を歩いている幼馴染の森岡海里だ。
親同士が学生の頃からの友達らしく、家も近所という事もあって、幼い頃からずっと隣にいる存在だ。
「ちょっとキンタ聞いてる?」
勿論僕の名前はキンタは本名ではない。海里が金本颯太という僕のスーパークールな名前を改造して、作りやがった大変不名誉なあだ名だ。
「聞いてるよ…」
「じゃあ答えてよ。」
えっと…ココロは何処か、だったな。
…そんなの分かるわけがない。
「さあ?」
「何、さあ?って!質問に答えろ!」
人生80年。たったの16年しか生きてない青二才だぞ。そんな深い質問の答えなんて、持ち合わせてるわけがない。
「キンタってほんと面白くない。」
「そりゃどうも。てか何だよいきなり。」
「べっつに〜何でもない。」
こういう時は大体何かある時だ。
というか、海里が突拍子もない質問をしてくるのは、そこまで珍しくない。そう言う時は、素直に口に出せない何かが自分の中にあって、こうやって遠回しに答えを求めてくるのだ。
「……人間の存在意義って何?の時は女友達との関係に悩んでた。神様って本当に居るのかな?の時は部活で伸び悩んでた。甘い=美味しいの定義って誰が決めたの?の時は体重増加で悩んでた。それからー」
「あ、その節は…」
へへへとわざとらしい照れ笑いをしながら、会釈をするのが堪らなくイラっとする。
「で、今回は何なの?」
「じ、実は…」
「?」
「す…すすす好きな人が出来ました!!!」
大きな声が住宅街に響いた。

何だそれ。
全然知りたくなかった。
「…へ、へぇ。」
突然のカミングアウトに、一瞬にして心臓が滅多刺しにされた。
腹から絞り出した声は少し掠れてしまった。
「ねえねえ、誰か知りたい?知りたいよね?」
知りたいわけない。この様子だと完全に僕じゃないし、わざわざ僕に恋バナをするって事は、ほぼ脈なしだ。
血の気の引いた手のひらをギュッと握りしめた。
知りたくない。知りたくない。知りたくない!

だけど…
「…だ、れなんだよ。」
海里のキラキラと輝く目を見たら、拒否する事は出来なかった。結局は惚れた弱み。惚れた方が負け。
海里の笑顔を崩したくない。
ただそれだけだ。

「1組の、小山君っ!」

それから海里は、小山君について雄弁に語り出した。
僕は、そっと気持ちを隠していつも通り相槌をうつ。

ココロの在り処なんて聞いてきたくせに、自分のココロが何処にあるかを語るなんて、ほんとに酷いやつだ。

でもきっと、僕のココロはもう戻って来ないんだろうな。


だって、こんなにも君の笑顔が眩しい。

2/11/2025, 4:33:23 PM