さらさら、さらさら。
砂時計で時間を計りながら、作業中のアイツを眺める。
「なんだよ」
「今めちゃくちゃハグしたいけど作業の邪魔したくないから我慢してるところ、です…」
「敬語ウケる。てか砂時計なんてうちにあったか?」
「こないだオレが買った」
「自腹?」
「ったりめーよ」
タイピング音が部屋に響く。
砂の擦れる音はそれよりずっと小さいはずなのに、何故かはっきりと聞こえる。
というより、脳に直接届いていた。
アイツが作業しているのを見かけると同時に計り始めて、もう十何分かの砂が落ちた。
上のほうに僅かに残っている砂を落としきって、また三分を加算しようとした時。
「…………ん」
という呟きとともに、アイツがこちらに両腕を広げた。
「…もう終わったのか?」
「まだだけど、別に急ぎでもねーし……それに、その…こっち優先、したかった、だけ」
頬を染めながら、歯切れ悪く言うアイツ。
…普段クールな分、こういう姿はめちゃくちゃかわいい。
思わず満面の笑みを浮かべてアイツに飛び込んだ。
その拍子に横倒しになり、転がって床に落ちた砂時計。
しばらく、次の三分を計ることはない。
このまま、オレたちの時間も止まればいいのに、なんて思ったり。
【砂時計の音】
不器用なお前が手ずから皮をむき、切り分けてくれた梨。
一つ取り、でこぼこの白い果肉を噛む。
繊維をほぐし、口中を甘い水で満たしながら、静かに味わう。
少しずつ飲み込み、さてもう一口、といったところで、お前が梨に手をつけず、こちらを見つめていることに気づいた。
「なんだよ」と問う。
「んー?幸せだな、って」
お前はそう呟いて、特に実が欠けた一切れをおもむろに手に取った。
【梨】
お前と一緒なら、どこまでも行ける。
というより、
お前の行くところなら、どこまでもついていく。
【どこまでも】
_______
ただの執着でごめんなさい。
アイツには笑っていてほしい。
けど、アイツを笑わせるのはオレじゃない。
だからオレは身を引く。
アイツの幸せが、オレの幸せだから。
…って、それっぽいことを言ってはみるけど、
結局オレは臆病なだけなんだ。
確かに、心からアイツの幸せを願ってる。
不幸にしたくないから、離れる選択をした。
けどそのあと、幸せに生きてるアイツを見て嫉妬するのが怖い。
オレ自身が不幸になりたくない。
アイツのためなんて言っときながら、結局自分のことしか考えられてないんだ、オレは。
惨めだなあ。
【愛する、それ故に】
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しかしそれも主観でしかない。
「アイツ」の気持ちも知らないで。
これが「孤独」か、と。
【静寂の中心で】