視界いっぱいの青空の中に、君はたたずんでいた。
ただ、遠くを見ながら、風に吹かれて立っていた。
その姿をずっと見ていたら、
溶ける、というか、透ける、というか。
そんな感覚を覚えた。
気づいたら、君がこの空に混じって、目の前から消えてしまうんじゃないかと。
そう感じた時にはすでに体が動いていて。
散らばった欠片をかき集めるかのように、君の後ろ姿を抱き締めていた。
「…どうしたの」
何の動揺もなさそうな声で、君が聞いてくる。
「いなくなりそうで」
「……安心して。何処に行ったって、帰るところはここしかないよ」
そう言って君は、こわばっていた僕の腕に、そっと手を重ねた。
【空に溶ける】
「なあ、どうしてもやりたいのか?」
「どうしてもだよ。今終わったら、次いつ来れるかわかんねえし…頼む、あと一回だけ」
「それ聞くのもう五回目だぞ、取れるまでやるつもりだろ」
「ホントに!ホントにこれで最後!!取れても取れなくてもこれで終わるから!」
「そもそもこれ、俺まで付き合う必要ねえだろ」
「一人でやるのは寂しい」
「はあ…ったく、しゃーねーな、ホントに最後だぞ」
「よっしゃ!!!!オレの勇姿見届けろよ!!」
「目つぶってるわ」
「ひっでー!」
UFOキャッチャーの前でわちゃわちゃする男子高校生二人。
【どうしても…】
______
結局、景品はとれなかったとさ。
少し前を歩くアイツの背中。
今ここで、袖を引いて、「まって」と言ったら、アイツは振り向いてくれるだろうか。
そんな妄想を、無意識に現実にしていたようで。
気づけば、幼子のように袖を掴んでいる自分の手が視界にあった。
その手を離そうにも離せず、たたずむ。
アイツも、突然袖を掴まれたことで、何か言いたげではあるが、何も言わない。
顔が熱くなるオレを横目に、アイツはオレの手を取って、繋ぐとも、掴むとも言えないような握り方をして、涼しい顔でまた歩き始めた。
こんな、優しいことをしてくれるとは。
夢にも思っていなかった。
驚きと戸惑いがうずまく。
けれど、その手の温もりにすっかり心が満たされてしまって。
すっかり上機嫌になったオレは、周りに見られることも気にせず、手を「繋ぎ」なおした。
【まって】
オレ、なんか別の世界に来たみたいなんだ。
アイツが…見当たらないんだ。
それに、元いた世界と、見た目は全部おんなじなのに、色が無い。
昔を思い出すけど、それとは違う。ここは「外」だから。
オレ、こんな世界知らない。
帰る方法、知らないか?
…別の世界、だよな?そうだよな?
そうに決まってる。アイツがいないんだから。
アイツがいない世界は、全部違う世界だ。
オレがいる世界じゃ、オレがいるべき世界じゃ、ない。
え?元の世界に戻ったって、アイツがいるとは限らないって?
……
余計なこと言うんじゃねえよ。
言ったろ?アイツがいない世界は、オレがいる世界じゃないって。
アイツがいない時点で、元の世界もオレがいるべき世界じゃない。
口挟むんなら、教えてくれよ。帰る方法。
「アイツがいる」元の世界に帰る方法を。
なあ、早く。
はやく。
【まだ知らない世界】
_____
他力本願。
「もし、オレのことを手放さなきゃいけない時がきたら、お前はできるか?」
「そんな時がくると思うのか?」
「わかんねえけど、もし、そうなったら」
「じゃあお前は?俺のこと手放せるのかよ」
「それは、」
「そんな話をするってことは、お前はその勇気があるってことだよな」
「……」
「俺を手放さなきゃいけない時がきたら、お前は手放せるんだな?」
「………嫌に決まってんだろ、無理だよ、やだ」
「…それなら、俺の答えも分かるよな」
「……」
「そんな未来永劫ありえねえこと、二度と聞くんじゃねえぞ」
「…うん」
【手放す勇気】
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愛が強すぎる故に、詰め寄ってしまう。