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少し前を歩くアイツの背中。



今ここで、袖を引いて、「まって」と言ったら、アイツは振り向いてくれるだろうか。


そんな妄想を、無意識に現実にしていたようで。
気づけば、幼子のように袖を掴んでいる自分の手が視界にあった。
その手を離そうにも離せず、たたずむ。
アイツも、突然袖を掴まれたことで、何か言いたげではあるが、何も言わない。


顔が熱くなるオレを横目に、アイツはオレの手を取って、繋ぐとも、掴むとも言えないような握り方をして、涼しい顔でまた歩き始めた。



こんな、優しいことをしてくれるとは。
夢にも思っていなかった。
驚きと戸惑いがうずまく。

けれど、その手の温もりにすっかり心が満たされてしまって。
すっかり上機嫌になったオレは、周りに見られることも気にせず、手を「繋ぎ」なおした。


【まって】

5/19/2025, 5:42:11 AM