生きていくうえで、なくてはならない。
手放したら死ぬ。いなくなったら死ぬ。
ずっと側にいるべき、一緒に生きるべき存在。
そういう意味をこめて、
「俺にとってお前は酸素みたいな存在だよ」
と言ったはずだけど、
お前は腹を立ててしまった。
言った後で気づいた。
この言葉、目に入らない、見向きもされない存在とか、ありふれて、個性のない存在って意味にも取れるよなって。
ごめん、俺が悪かった。
誤解招くようなこと言って。
これからはこんな回りくどいこと言わないから。
これからはちゃんと「大好き」って言うから。
【酸素】
φ(..)
【記憶の海】
うざったい絡みをしてくる。
所構わずでかい声で俺を呼ぶ。
寄り道をそそのかしてくる。
すぐ肩を組んでくる。
お前はそういうヤツだ。
何かあると一番に俺に電話を寄越すし、
会いたいからと、深夜に家に押し掛けてきたこともあった。
そんな、はた迷惑なヤツだけど、
人生を諦めかけてた俺を救ってくれたのも、
一度たりとも側を離れずにいてくれたのも、
心の温もりを、幸せを教えてくれたのも、
俺の存在を「幸せだ」と言ってくれたのも、
全部お前だった。
お前だけだった。
お前の言動が全部、俺への好意、愛情の表れなのは知ってる。
それに対して、なんだかんだ突き放せずにいる自分の心も、俺は知ってる。
だから俺は決めた。
そんなお前を、俺の『幸せ』を、一生かけて守ると。
【ただ君だけ】
「何ですかこれは」
「夢です」
「これのどこが?真っ黒じゃない」
「ゆうべは夢を見てないので、こうするしかなくて」
「…………」
「……………」
「……そういうことじゃなくて」
「?」
「私が描くよう言ったのは将来の夢です」
「……ああ」
「新しいキャンバスはあるから、描きなおしてきなさい」
「いや、ちょうどいいのでこれを背景にして描き足します」
【夢を描け】
精一杯の背伸びをする。
足の接地面積が一番小さくなるまで。
手を伸ばす。
少しでも上まで届くように。
声を漏らす。
限界まで伸ばした背に、もう少しだけ負荷をかけるように。
もう無理、と身体が言うまで、背伸びを続ける。
もう無理、と身体が言っても、仕事を終えるまで背伸びを続ける。
そうして、できる限りで綺麗にした黒板。
背伸びをやめると同時に、どっと疲れが押し寄せる。
そんな自分を見て、「かわいい」とはしゃぐ声もあり、「ぶりっ子」と陰口を言う声もあり。
好きでこうなってるわけじゃない。
飾っているわけでもない。
なのに勝手にやいやい言ってる周りが憎らしい。
まだ残ってるぞ、なんて小馬鹿にしながら軽々と一番上を消してみせる、背の高いアイツも憎らしい。
仕事返せ、と黒板消しを奪おうと格闘する。
アイツはすんなり自分に黒板消しを渡したと思ったら、自分を黒板の一番上に届くところまで抱き上げた。
クラス中が騒ぐ。
…あー、ホントに、憎らしい。
【届かない……】