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木の葉に細かく刻まれた陽の光。
それが創り出す芸術を、人は木漏れ日と呼ぶ。


その下に佇むアイツ。
風が吹いて、光が散らばる。
それに照らされた明るい色の髪が、肌が、光る。


「何突っ立ってんだ?暑いだろ、こっちこいよ」
こちらに気がついたアイツが、手招きをしながら呼び掛けてくる。
確かに暑いが、あの木漏れ日の下に入る気にはなれなかった。

あの光る芸術作品を、汚したくなかった。


けれどアイツは自分がそんなことを考えているとは知らない。不思議そうな顔をしながら、動かない自分をさらに呼ぶ。

しぶしぶ、木漏れ日の下に入った。
アイツから少し離れたところに立つ。
そうしたら、アイツのほうから寄ってきて、腕を引かれた。
「んな遠いとこ行くなよ、避けてんのか?」
そう言いながら、さっきアイツがいたところまで引っ張られる。
そういうわけじゃない、と返すと、ならいいけど、とアイツは子供っぽい笑みをこぼした。

その素朴なかわいらしさといったら。
なんと表現していいか分からない。
けれど、こうやって自分がそばにいても、この芸術作品は汚れていない。
それが分かったことに少し安心して、アイツの隣で風を感じた。



【木漏れ日】

5/7/2025, 11:52:39 AM