うざったい絡みをしてくる。
所構わずでかい声で俺を呼ぶ。
寄り道をそそのかしてくる。
すぐ肩を組んでくる。
お前はそういうヤツだ。
何かあると一番に俺に電話を寄越すし、
会いたいからと、深夜に家に押し掛けてきたこともあった。
そんな、はた迷惑なヤツだけど、
人生を諦めかけてた俺を救ってくれたのも、
一度たりとも側を離れずにいてくれたのも、
心の温もりを、幸せを教えてくれたのも、
俺の存在を「幸せだ」と言ってくれたのも、
全部お前だった。
お前だけだった。
お前の言動が全部、俺への好意、愛情の表れなのは知ってる。
それに対して、なんだかんだ突き放せずにいる自分の心も、俺は知ってる。
だから俺は決めた。
そんなお前を、俺の『幸せ』を、一生かけて守ると。
【ただ君だけ】
「何ですかこれは」
「夢です」
「これのどこが?真っ黒じゃない」
「ゆうべは夢を見てないので、こうするしかなくて」
「…………」
「……………」
「……そういうことじゃなくて」
「?」
「私が描くよう言ったのは将来の夢です」
「……ああ」
「新しいキャンバスはあるから、描きなおしてきなさい」
「いや、ちょうどいいのでこれを背景にして描き足します」
【夢を描け】
精一杯の背伸びをする。
足の接地面積が一番小さくなるまで。
手を伸ばす。
少しでも上まで届くように。
声を漏らす。
限界まで伸ばした背に、もう少しだけ負荷をかけるように。
もう無理、と身体が言うまで、背伸びを続ける。
もう無理、と身体が言っても、仕事を終えるまで背伸びを続ける。
そうして、できる限りで綺麗にした黒板。
背伸びをやめると同時に、どっと疲れが押し寄せる。
そんな自分を見て、「かわいい」とはしゃぐ声もあり、「ぶりっ子」と陰口を言う声もあり。
好きでこうなってるわけじゃない。
飾っているわけでもない。
なのに勝手にやいやい言ってる周りが憎らしい。
まだ残ってるぞ、なんて小馬鹿にしながら軽々と一番上を消してみせる、背の高いアイツも憎らしい。
仕事返せ、と黒板消しを奪おうと格闘する。
アイツはすんなり自分に黒板消しを渡したと思ったら、自分を黒板の一番上に届くところまで抱き上げた。
クラス中が騒ぐ。
…あー、ホントに、憎らしい。
【届かない……】
木の葉に細かく刻まれた陽の光。
それが創り出す芸術を、人は木漏れ日と呼ぶ。
その下に佇むアイツ。
風が吹いて、光が散らばる。
それに照らされた明るい色の髪が、肌が、光る。
「何突っ立ってんだ?暑いだろ、こっちこいよ」
こちらに気がついたアイツが、手招きをしながら呼び掛けてくる。
確かに暑いが、あの木漏れ日の下に入る気にはなれなかった。
あの光る芸術作品を、汚したくなかった。
けれどアイツは自分がそんなことを考えているとは知らない。不思議そうな顔をしながら、動かない自分をさらに呼ぶ。
しぶしぶ、木漏れ日の下に入った。
アイツから少し離れたところに立つ。
そうしたら、アイツのほうから寄ってきて、腕を引かれた。
「んな遠いとこ行くなよ、避けてんのか?」
そう言いながら、さっきアイツがいたところまで引っ張られる。
そういうわけじゃない、と返すと、ならいいけど、とアイツは子供っぽい笑みをこぼした。
その素朴なかわいらしさといったら。
なんと表現していいか分からない。
けれど、こうやって自分がそばにいても、この芸術作品は汚れていない。
それが分かったことに少し安心して、アイツの隣で風を感じた。
【木漏れ日】
知ってるよ。
お前の目が、俺を見てないこと。
正確には、俺の向こう側を、俺越しに見ていること。
気づいてないと思ってただろうけど、分かりやすすぎんぞ。
だって、俺はお前のことちゃんと見てるから。
最初は俺のこと嫌いになったのかと思ったけど、別にそんなことなさそうだし、嫌いだったらそもそも一緒になんているはずないから、全然、わかんねえんだよな。
だから聞くわ。
なんで、
なんでこっち見ねえの。
なんで俺のこと、みてくれねえの?
なあ、なんで?
【すれ違う瞳】
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A.好きだから。明らかに態度を変えると怪しまれるが、ちゃんと見てしまうと、気持ちが抑えられなくなりそうだったから、見ているようで見ていないふりをした。