「ついに…この時がきたな」
「ああ…」
「荷物全部持ったか?」
「お前がいるから大丈夫」
「オレに二人分の荷物管理任せるな馬鹿ヤロー」
「そうだな」
「は?」
「あとその解釈、半分間違ってるぞ」
「え、じゃもう半分は?」
「言葉通りの意味」
「……っそういう話じゃねえだろこの人たらし」
「お前にだけだが」
「うっせバーカ!!!!……行くぜ、相棒」
「おう」
拳を突き合わせ、二人が向かうのは、
某「夢の国」。
【さぁ冒険だ】
踏まれても踏まれても、強く、たくましく生きている、あの一輪の花。
しかし、その核はずいぶんと脆いことを、自分は知っていた。
だからこそ、寄り添いたいと思った。
一つになりたい訳じゃない。
ただ側にいたかった。
1+1のままで。この関係に答を出さないままで。
あの1が、真に強い、誰にも揺さぶられない1になるまで。
【一輪の花】
アイツを生かす「魔法」を、死ぬ気で探す。
【魔法】
あの日、アイツと寄り道した場所で見た虹。
遠くの雲の切れ間から差し込む光と雨粒が、はっきりと作り出した虹。
灰色の空を彩るあの七色のアーチは、まさしく「絶景」そのものだった。
しかもあの時、回りには誰もいなかった。
つまり、二人きりの「絶景」の記憶。
その事実が、余計に虹を綺麗に見せた。
…まあ、自分は、珍しく目を輝かせているアイツの横顔に釘付けで、虹のほうはあんまりじっくりとは見てなかったんだけども。
【君と見た虹】
空を、飛んでみたいと思った。
だから、空を翔べるアイツに頼んでみた。
アイツは嫌そうな顔をしながらも、渋々了解してくれた。
そして今夜。
二人、手を繋いで、夜の世界へ飛び込んだ。
「すげーオレ空飛んでる!!」
「俺の能力でな。感謝しろよ」
「もうめっちゃしてる!あ、あそこキレー」
「ホントだな」
駄弁りながら、風を切って進む。
耳元は風の音で塞がれているから、いつも通り喋るにも、声を張り上げる必要がある。
そうやって大声を出すのも、飛ぶことの爽快感を大きくしていた。
「誰か連れて飛んだのは初めてだったが、意外とうまくいくもんだな」
「ま、オレだからな!体の使い方分かってっし」
「初めてなのに?」
「へへん、だからこーやって、自由じざ………っっっ!!!!」
調子にのって、体を動かそうとしたとき。
一瞬、手が離れた。
つかみ直そうとして二人同時に手を伸ばすが、その手は同時に空を切った。
力の伝達回路が切れて、重たくなった体が落ちていく。
息がうまく吸えない。服が風に遊ばれてバサバサうるさい。
そうして意識が薄れ始めた時。
急降下してきたアイツに抱き止められる。
オレも必死でしがみついた。
空中で静止し、二人抱き合う。
お互いの荒い呼吸だけが聞こえていた。
「バッ……カ野郎…だからやりたくなかったんだよこんなこと」
「…ごめん」
「…怖いか?」
「ちょっと」
「もうやめるか?」
「…いや、まだ飛びたい。それに、お前はまた助けてくれるだろ?」
「はあ、仕方ねえな」
「ハハッ、冷てー」
「……じゃあ、行くか」
「おう」
そっと体を離して、手を繋ぎなおす。
今度はもう離れないように。
そして、また駄弁りながら、風にのって飛び始めた。
遠く、遠くの空へ。
【夜空を駆ける】