待てども待てども、来ることはない。
だって、もういないんだから。
それでも待つことをやめられないくらいには、君が好きだった。
【君からのLINE】
「好き」
なけなしの勇気を振り絞って告げた言葉。
彼は驚いたあと、真顔で問うた。
「それ、本気?」
「え…ほ、本気って、どういう…」
「浮気しない?」
肩をつかまれ、鋭い語調で突然問いかけてくる。
圧されながらうなずくと、さらにまくし立てられた。
「深夜にLINEしたり家行っても怒らない?ちっちゃいことで怒っても許してくれる?しつこくてもいい?」
…等々。
すごい剣幕はけれども、次第に困ったような、泣きそうな顔になって、声も震え、最後に一言。
「ずっと一緒?」
その甘ったるい声に、彼のほうも自分を想っていたことを知り、嬉しさ混じりに僕は「うん」と答えた。
あれは束縛めいた言葉にも聞こえたが、彼は単純に僕のことが好きすぎるだけのようだった。
まず距離が近くなった。
以前までは近くもなく遠くもなくといった感じだったが、今ではゼロ距離が基本になった。
日常ではきちんと一線をひいているようで、必要な時にはあっさりと離れてくれる。
しかし二人になると、その見た目からは想像できないほどかわいらしい甘えかたをしてくる。
そして、時々深夜に「さみしい」と連絡が来て通話に付き合ったり、限界が近かったのか、泣きながら自宅を訪ねてきた時はそばにいてあげた。
過去に何があったのかは知らないが、彼は僕と別れることより、どこかへいなくなったりすることが怖いようだった。
初めてそれがあったとき、深夜にLINE云々はこういうことかと思いながら、必死で彼を慰めた。
そうやって一緒に過ごすうち、彼の印象は「かっこいい」から「かわいい」に変わっていき、僕はさらに彼に本気になっていって、今では彼なしでは生きられなくなっている。
【本気の恋】
────
こんなデカすぎる感情、どうやって隠してたんでしょうね。
カレンダーなんて見たくない。アイツが死んでから何日経ったか数えてしまうから。
ずっと好きだった人を失った友がそう言って泣いてから、今日で13日。
【カレンダー】
それは、ふいに指を切ったような、持っていたスマホを取り落としたような、ただそれだけの感覚に近かった。
けれど傷は閉じず。スマホは破片になり。
どれだけ補完しようとも『穴』は埋まらない。
これが喪失感か、と、かき集めた骨を抱き抱えながら思った。
【喪失感】
踊るようにステップを踏みながら歩く彼女。
「そんなに楽しい?」
「当たり前でしょ?だって3ヶ月ぶりのデートだし」
「そっか」
「…ありがとう」
「なにが?」
「今までの人たちは、これだけ日が空いてからのデートだと、なんでこんなに会えないのって言われて、そのあともあんまりいい雰囲気じゃなかったから。で、そのあとに大体別れてた。だから、こんなに楽しんでくれて感謝してる」
彼女は、一度歩幅をあわせてくる。
「そりゃあ見る目がなさすぎよ、あんたもその女たちも」
「そうかもね、ホントに」
「頻繁じゃなくたって、デートできるだけ感謝しろっての。てかデートじゃなくても会えたり話したりできるだけで奇跡だかんね?」
「はは」
「…あたしはそういう考えがあるからさ、過去のやつらとは絶対同じにはならないからね。あんたが人間として終わらない限り別れない、だから安心して」
「…うん、ありがとう。君を好きになってよかった」
「ちょ、そういうことさらっと言うなって!!」
「そっちこそ」
「んーもう!!さっさと行くよ!!」
真っ赤になった彼女はずんずんと歩いていく。
僕は笑いながら、最高にカッコよくて最高にかわいい彼女のあとを追った。
【踊るように】