それは、ふいに指を切ったような、持っていたスマホを取り落としたような、ただそれだけの感覚に近かった。
けれど傷は閉じず。スマホは破片になり。
どれだけ補完しようとも『穴』は埋まらない。
これが喪失感か、と、かき集めた骨を抱き抱えながら思った。
【喪失感】
踊るようにステップを踏みながら歩く彼女。
「そんなに楽しい?」
「当たり前でしょ?だって3ヶ月ぶりのデートだし」
「そっか」
「…ありがとう」
「なにが?」
「今までの人たちは、これだけ日が空いてからのデートだと、なんでこんなに会えないのって言われて、そのあともあんまりいい雰囲気じゃなかったから。で、そのあとに大体別れてた。だから、こんなに楽しんでくれて感謝してる」
彼女は、一度歩幅をあわせてくる。
「そりゃあ見る目がなさすぎよ、あんたもその女たちも」
「そうかもね、ホントに」
「頻繁じゃなくたって、デートできるだけ感謝しろっての。てかデートじゃなくても会えたり話したりできるだけで奇跡だかんね?」
「はは」
「…あたしはそういう考えがあるからさ、過去のやつらとは絶対同じにはならないからね。あんたが人間として終わらない限り別れない、だから安心して」
「…うん、ありがとう。君を好きになってよかった」
「ちょ、そういうことさらっと言うなって!!」
「そっちこそ」
「んーもう!!さっさと行くよ!!」
真っ赤になった彼女はずんずんと歩いていく。
僕は笑いながら、最高にカッコよくて最高にかわいい彼女のあとを追った。
【踊るように】
この方といられるのは、真夜中の12時まで。
時計を確認しながら、王子様と踊る。
ああ、もうすぐ12時、離れないと…
そう思っても、心と、王子様の腕は離してくれない。
どうしよう、魔法がとけてしまう…!
意を決して王子様から離れる。
急いで階段を降りて、ガラスの靴が片方脱げて、焦って取りに行くうちに、時を告げる鐘が鳴って、魔法がとけて…
ない。
ドレスはそのままだし、王子様も変わらず追いかけてくる。
な~んだ、嘘だったの、あの魔女の話は。
私ったら焦って、バカみたい。
「王子様!朝まで踊り明かしましょう!!」
そうして二人は、パーティーが終わるまで踊り続け、その後幸せに暮らしましたとさ。
──そのころ。
「ア!!魔法とき忘れてた!!!!!!」
【時を告げる】
この瓶に集められているのは、片割れが見つからない二枚貝の貝殻たち。
ここ数年、季節関係なく海に行き、その度にこれらを集めている。
片割れが見つからなくて、もしかしたらもう出会えないかも知れなくて、
そうやって寂しい顔をした貝殻に、自分を重ねてしまうから。
【貝殻】
些細なことでも、全部書き留めておく。
それを時々見返して、こんなこともあったなとひとり笑って、
お前にも見せたとき、こんなことまで覚えてるのかよと大笑いしてくれたら、
この日記にはこれ以上ないくらいの価値が生まれる。
【些細なことでも】