心の灯火。そよ風が吹いただけで消えてしまいそうな火。今までずっと抱えてきたそれに、さらに追い討ちをかけられる。
最悪の境遇のなか、それでも生きた。死ぬ気で生きた。
お前は、そんな自分と同じ境遇にありながら、いつまでも燃え続ける心を持っていた。
そして、その火を自分に分け与えてくれた。
始めこそ悔しかった。意地があったから。
でもだんだん、その性格に絆されて、分け与えられるのも悪くない気がしてきて…
違う。お前が分け与えたんじゃない。
自分の心が勝手に燃え上がったんだ。
それに気づいた今、自分はあの人間を生涯愛すると誓った。
【心の灯火】
口下手なくせに、お前は言葉を探してる。
自分を慰めてくれようとしてるのは分かる。
けれど、その行動が気にくわない。
お前がこうして隣にいるだけで十分なのに、それをお前は分かってないから。
【言葉はいらない、ただ…】
「ただいま」
そういって突然訪ねてきた、死んだはずの人間。
なんで生きてるんだとか、教えた覚えのない自宅の場所をなぜ知っているのかとか、色々考えたけど、
もう一度対面できたことが嬉しくて嬉しくて、「おかえり」と返しながら思い切り抱き締めた。
そんな夢を見るほど、アイツが好きだった。
【突然の君の訪問。】
雷雨が続く空の下、傘もささずに立ち尽くす。
服が水を吸って重くなる。肌にはりついたそれは全身から体温を奪っていく。顔や手を雨粒が流れて落ちていく。
今にもすぐそばから「バカ、風邪ひくぞ」という声が聞こえてきそうなのに。
こんなことをしても、誰にも咎められない。
咎めてくれる人は、もういない。
俺の唯一だった人間が死んだ。その事実を受け入れろと言わんばかりに、雨はさらに強くなる。
俺より先に死んだら許さないって言ったじゃん。
分かった、って、俺が怒ると怖いから気を付けるって、お前も言ってたじゃん。
なのになんで俺より先に逝くんだよ。
真っ暗な空を見上げ、「うそつき」と呟く。掠れた声しか出なかった。
【雨に佇む】
向かい合わせで座りたいと頑なに譲らない彼女。
「隣だと顔が見えないでしょ」と涼しげな顔で言う彼女の耳は、ほんのり色づいていた。
【向かい合わせ】