布団に寝転がってスマホをいじっていたら、昨日の夏祭りのことを、ふと思い出した。
慣れない浴衣を着て、脱げそうな草履の鼻緒を足の指で必死に引き止めながら、二人、境内の屋台を巡っていた。
お互い、好き勝手に目についた屋台に行って、約束した時間じゃないのに気づいたら合流してたりして。会うたびに大笑いした。
祭りのメインディッシュの打ち上げ花火。
始まる前に穴場に行くのは間に合わなかったので、仕方なく境内の隅っこで花火を眺めた。
綺麗だったな。
花火、もそうだけど、花火を眺めるアイツの横顔が。
一つ思い出すと、走馬灯のように色々よみがえってくる。
かき氷の溶けた残りを飲みほす、アイツの喉仏。
熱々のたこ焼きに息を吹き掛ける、アイツの唇。
生ぬるい風になびく、アイツの髪。
屋台の光を反射して煌めく、アイツの瞳。
屋台巡りの後、意図せず合流するたびに、たまらず吹き出した、あの顔。
視線をおろせば、いつもより露出した手足の首。
全部全部全部、綺麗だった。
ここまで思い出せるのはもう、変態かもしれない。
その全部を、自分は絶対に手に入れられないと分かっているくせに。
…初めから終わっていた恋心を急に自覚してしまって、勝手に涙が出てきた。
【お祭り】
「俺の心臓あげるから、コイツを生き返らせてください」
絶望の底でそう祈った矢先。
突然、空からまばゆい光が。
思わず目をつぶる。次に開けたとき、そこには光を纏った、人…が浮いていた。
『いっすよぉ』
脳内に直接語りかけてきた。ノリが軽い。
「いっすよって、誰ですかあんた、」
『神様です』
「神様…?」
『そ、神様』
言い終わるや、両の腕を広げる。腕の周辺の光の群れが散らばった。
『さて、神様であるこのワタシが、愛するこの世界の住人を蘇らせてあげましょう!それっ!!』
「神様」が、冷たくなった身体に手をかざす。
穴のあいた胸は元通りになり、肉体は静かに呼吸を始めた。
一方、自分の心臓はなんともない。
『さーぁこれで終わり!貴方最初、自分の心臓を捧げようとしたでしょ?でもワタシそういうのすごーく嫌だったので、かわりに貴方の寿命をいただきました!お二人の寿命を調整したので、まーったく同じ時間に死ぬことができます!』
「なんで…」
『なんか~、お二人はひじょーに強い縁で結ばれているんですよね、でも今、一度千切れたんですよ、この子の死によって。でもでも、お二人の縁、将来さらにさらに強くなる予定だったので、ワタシそれを是非見たくって!ですからこれは特別です!甘んじて受け入れるように』
言うだけ言って、「神様」は光を振り撒き去っていった。光の群れが空に吸い込まれる直前、
「では、これからの人生を楽しんで!
…これくらいしたっていいですよね、神だし」
という声が、耳に届いた。
【神様が舞い降りてきて、こう言った。】
君という鳥かごの中で、永遠に支配されたい。
【鳥かご】
どこまでが友情で、どこからが恋情かなんて、自分には分からない。
けれど、自分が唯一の親友に向けているのが友情では片付けられない感情だということは、嫌でも解る。
【友情】
帰り道、馴染みの駄菓子屋の前で、友人と他愛ない会話をする。
時々、くだらない冗談を言い合ったりして。
その度に、夕焼けをバックにした大輪の花が咲くから。
今日も「好き」が募る。
【花咲いて】