あの時と同じ場所にて。
友人が遠慮がちな口調で話を切り出した。
「なあ」
「うん」
「去年ここでした話覚えてる?」
「んー、なんとなく?」
「あそ…まあ覚えてないよりいいや。あれから俺、真面目に考えたんだ」
「うん…?」
「だからさ、ちょっと言っていい?」
「?うん…」
「お前の心が欲しい。今は、ホントに」
「…」
驚いて言葉が出ない。
「ほら、言ってたじゃん、次はもっとちゃんとしたの待ってるって。だからこれは、その『ちゃんとしたの』、のつもり」
「…」
だんだん理解できてきて、嬉しさと可笑しさが込み上げてきた。
「ずっと考えてたんだ、お前とのこと。俺、お前とだったら、別にその、付き合っても、いいかなって…思って」
「…」
緩む口元を隠そうと顔をうつむける。
「あ、え?もしかしてあれも冗談だった!?真剣だったの俺だけ!?…あーならいいごめん!やっぱ取り消して」
「いいよ」
「え?」
「だから、付き合おってことだよ」
「へ、今なんて」
もう限界。嬉しい、可笑しい、面白い。大好き。
「おれの心はとっくの前からお前のモンだってことだよ!あん時のセリフで察せよバーカ!」
ずっと欲しかったものが、たった今手に入った。
【今一番欲しいもの】
______
個人的伝説のお題。また巡ってきたので去年の話と繋げました。
去年はキザ男くん(仮名)(別にキザじゃない)目線でしたが、今年はもう片方の子の目線です。
去年の話は今でもずっと傑作だと思ってたので、続きを書けて本当に嬉しいです。
てか、真剣に考えた言葉を取り消そうとするなよ、それこそバカだぞ。
私の名前は田中実。たなか みのり と読む。
親は真剣に考えてつけてくれた、けどなんか、申し訳ないけど、どこにでもいそうな、ありふれた名前だな、とぼんやり感じながら生きてきた。
そうしたら、ある日やってきた転校生の男の子。
名前が田中実。
読みは、たなか みの「る」 らしいが、漢字だけなら同姓同名。
今まで自分の考えてたこと、当たっちゃったって、その転校生の紹介の時に大笑いした。
もちろん、私の名前を知っているクラスメイトもみんなざわざわ。転校生は一瞬にしてクラスの注目を集めた。私も一番に転校生と握手をしに行った。
後で聞いたら、名前の由来も全く同じ。また大笑いしてその子の背中をバシバシ叩いた。
彼は、今では私の一番の仲良し。
兼、私の最愛の家族。
【私の名前】
_______
この話を書くにあたって、初めは日本で一番多い苗字と下の名前をくっつけようと思って調べたんですが、読みと漢字で分かれてたりしてなかなか上手く行かず。そんなところに、日本で一番多いフルネームを見つけて、「即採用!!!!」となりまして、こうなりました。
自分も、同姓同名の人がテレビにでてるのを見てびっくりした経験があります。名前って面白いですね。
まっすぐにどこかを見つめる目。
その視線の先には、
何もいなかった。
なのに、彼はそこに何かがいて、意思の疎通でもはかろうとしているかのように見つめている。
やっぱり動物には、人間にはない感覚があるのかなと思いながら、彼にちゅーるを差し出した。
邪魔されて気分を害したのか、手に軽い猫パンチを喰らった。
【視線の先には】
「浮気、してないよな」
不安から、喉の奥につかえていた言葉が雪崩れ落ちた。
ため息をつかれた。
「…ついに言われたか」と独り言のように呟いたと思うと、両の頬を大きな手で覆われた。
「いいか?今お前のいる世界には、お前以外のヤツに惚れ込んでる俺はいない」
言いながら、頬を弄ばれる。少し痛かった。
不意に自分を見つめる目が優しくなって、ふわりと抱き締められた。
「俺の都合で毎回会うの先延ばしにしてるのは悪いと思ってる。浮気を疑われるのも仕方ないし、俺だっていつかそういうこと言われると思ってた。でも、
俺には、お前だけだよ」
心底愛おしそうな口調だった。
「…ごめん」
それだけを、何とか絞り出す。
視界が涙でぼやけた。
【私だけ】
あの日、大切な人と見た、大きな夕日と、
今、目の前にある夕日。
同じもののはずなのに。
あいつがいないだけで、
「…全然綺麗じゃないや」
【空を見上げて心に浮かんだこと】