まっすぐにどこかを見つめる目。
その視線の先には、
何もいなかった。
なのに、彼はそこに何かがいて、意思の疎通でもはかろうとしているかのように見つめている。
やっぱり動物には、人間にはない感覚があるのかなと思いながら、彼にちゅーるを差し出した。
邪魔されて気分を害したのか、手に軽い猫パンチを喰らった。
【視線の先には】
「浮気、してないよな」
不安から、喉の奥につかえていた言葉が雪崩れ落ちた。
ため息をつかれた。
「…ついに言われたか」と独り言のように呟いたと思うと、両の頬を大きな手で覆われた。
「いいか?今お前のいる世界には、お前以外のヤツに惚れ込んでる俺はいない」
言いながら、頬を弄ばれる。少し痛かった。
不意に自分を見つめる目が優しくなって、ふわりと抱き締められた。
「俺の都合で毎回会うの先延ばしにしてるのは悪いと思ってる。浮気を疑われるのも仕方ないし、俺だっていつかそういうこと言われると思ってた。でも、
俺には、お前だけだよ」
心底愛おしそうな口調だった。
「…ごめん」
それだけを、何とか絞り出す。
視界が涙でぼやけた。
【私だけ】
学生時代から片思いしていた友達。
隙を見せれば溢れそうな気持ちを抑えて、今まで接してきた。
でもなんだか、だんだんこの恋に希望が見えなくなってきて、
終わりにしようと思った。
たまには宅飲みでもしようと誘って、家に呼び出す。
ビールやらワインやらを机に並べて、至って普通の宅飲みを演出する。
そして、酔いが回りはじめたところで、男を押し倒した。
散々に嫌われて、この気持ちを終わらせようと思ってやったことだったのだが、
男が存外よさそうな顔をするもんだから、
気づいたら、
【終わりにしよう】
アイツを追い越したい。
抜け目のないあの男を負かしてみたい。
あの頃は、強い劣等感がありました。
そんな感じで勝負をしかけて、
一緒に過ごしてみると、
意外な一面を見つけたりして、
あー周りはこういうの知らないんだろうなって、
優越感に浸っていました。
そうこうするうちに、
その男を好きになっていまして、
勢いのまま告白したら、
男は顔を真っ赤にして、大層愛らしい反応をしまして、
その日、
二人の間に、
大きな愛が生まれたのです。
【優越感、劣等感】
これまでずっと、苦しかったもんな。
お前はこれで楽になれたんだよな、多分。
俺も精一杯抗ってみるよ、お前のとこに逝くまで。
一旦、お別れだな。
今までありがとう。またな。
葬式の日。すっかり白くなったその顔に、別れの言葉を告げる。
「だいすき」の四文字は、心の底に封じ込めて。
口に出すと、余計に寂しくなるから。
【これまでずっと】