「………」
「……………」
自宅の窓からこちらを覗いている女性と目があった。
「あ、どうも~」
とでも言うように控えめに手を振っている。
薄気味悪さを覚えながら窓に近づく。
するとその女性は、へらへらとした笑顔を浮かべながら捲し立てた。
「あ、!あの~私レイコといいまして~ずっとあなたのこと見てたんですよ!かっこいいなーって!あの、それでなんですけど、えへへ、私と付き合ってくれませんか?」
窓は締め切っているはずなのに耳に響く声量で、くねくねと動きながら、勝手に話し続ける女性。
「…あの、それよりも」
「はい?」
「ここ四階ですけど…どうやってここまで来たんですか?ベランダもないのに」
「え?浮いて来ましたよ?幽霊なので」
「……うわ」
「で、付き合ってくれるんですか?」
「幽霊はちょっと…」
「分かりました!人間ならいいんですね!!」
「そういうことじゃ…」
数週間後、その女性は人間の姿になって、今度はちゃんと玄関からやってきた。
告白はもちろんお断りした。なぜか友達にはなったが。
【窓越しに見えるのは】
入道雲のようにわきあがってくる想い。
あの子の為にも早く忘れてあげたくて、こんな自分が憎くて、一晩中、布団に雨を降らせた。
でもなんで…?
雲は雨を降らせたら消えるはずなのに。
どうして私の雲は消えてくれないの?
【入道雲】
じりじりと肌を焼く暑さにバテる夏。
水泳の授業を数回でリタイアして、傍観者に成り変わる夏。
制汗剤と日焼け止めのにおいが教室内に充満する夏。
外と中の寒暖差で毎年誰かが風邪を引く夏。
毎日のようにコンビニで買ったアイスをかじりながら帰る夏。
イベントでカップルが成立して周りが無駄に盛り上がる夏。
早々に課題を放棄してスイカを食べて涼む夏。
どこを探しても、もう君はいなかった。
【夏】
ここではないどこかへ逃げていたら、
今頃、永遠に二人でいられたはずなのに。
なあ、
俺は、どうすればいい?
お前がいなくなったこの世界で、
どうやって生きればいいっていうんだよ。
【ここではないどこか】
いつものように学校に行って、いつものように静かに座っている君にちょっかいをかける。
君はうざがりながらもいつものように付き合ってくれて、いつものように笑いあった。
休み時間はいつものように他愛もない話をして、
次の時間割りにはいつものようにうんざりして、
昼休みはいつものように二人っきりで屋上で食べて、
掃除の時にはいつものように先生にばれないようにふざけあって、
帰りにはいつものように肩を並べて帰る。
分かれ道で、いつものように名残惜しさを残しながら、誰よりも長いバイバイをする。
そうして、姿が見えなくなった頃に、やっと家路についた。
次の日から、君は来ることはなかった。
【君と最後に会った日】