あわよくば、あの人と相合傘がしたい。
そう思ってカバンの底に忍ばせている折り畳みの傘は、依然として、持ち主である僕しかその下にいれたことがない。
雨が打ち付ける教室の窓に、指でこっそり相合傘を描く。
今日は運良く傘忘れててくれないかな、あの人。
【相合傘】
夢の中で大きな機体が落下して、体が跳ねて起きるとき、ありますよね。
びっくりして少しの間動けなくなって、なんだ夢か、なんて思って、すぐ横を見ると、隣で何事もなかったかのように恋人が寝ているわけですよ。
たった今隣の人間がベッドを揺らしたのに、それはもうすやすやと。
そんなとき、あーなんか幸せだなって、思ってしまうんです。
寝つきが良すぎて何が起こっても目覚めない恋人が、心底愛おしくてたまらないのです。
【落下】
「私、けっこう梅雨の時期好きなんだよね」
帰り道、突然切り出された話。
どうして?と形式的に聞き返すと、彼女は花壇の方向を指差した。
「ほら、あれ」
そこには、青が強めの紫色のあじさいが咲いていた。
「私あじさいが好きなんだ~」
脈絡のない語調で彼女は言い、そのあじさいの前にしゃがみこんだ。自分も座らされる。
そして、また勝手に話し始める。
「あじさいって、土のペーハーによって色が決まるんだって。ん?ペーハー、って言い方はもう古いか、ははっ。…このあじさいは青だから、土は酸性か。よかったよかった、私この色好きなんだよねぇ」
あじさいの花びら(正式には「ガク」だとのちほど聞かされた)をつまみ、軽く引っ張り、撫で、弾き、彼女はつらつらと聞いてもいないことを語り続ける。
そろそろあじさい講座にも飽きてきて、帰ろうかと立ち上がった時、
「ね、綺麗でしょ~」
そういって笑いかけてきた彼女。
その笑顔が、あじさいが霞んでしまうほど綺麗に見えて、不覚にも、この空気を読まない少女にときめいてしまった。
【あじさい】
「この食べ物は、好き?」
「好き」
「この色は?」
「好き」
「このドラマは?」
「うーん…嫌い」
「この虫は?」
「え、嫌い嫌い、大嫌い」
「この絵は?」
「あんまり好きじゃない」
「この写真は?」
「うーん、ちょっと好き?」
「この空間は?」
「結構好きかな」
「じゃあ、僕のことは?」
「…世界で一番大好きっ!」
【好き嫌い】
「やりたいことがない」
「じゃあやることあげる」
「何」
「俺のために生きて」
「無理」
「何で、」
「もうやってるから。それよりもっと別のことやりたい」
「…なら、旅行でも行く?」
「行く!」
「…」
嬉しいやら悲しいやら。
【やりたいこと】