この街は事件で溢れている。
毎日数え切れない程の依頼が舞い込んでくる。
このミルクを飲み終わる頃には客が来るだろう。
チリンチリンッ
おっと、噂をすればだ。
「腕利きの探偵がいるって聞いたのだけど」
「その情報に間違いはないな。どうしたんだい、お嬢さん?」
「探して欲しい物があるの」
「お安い御用さ。そのブツの特徴を教えてくれ」
「“コウモリ”よ」
「おいおい、何でまた。こりゃ話が変わってくるぜ」
「盗ったやつには心当たりがあるの。左目に傷のある“トラ”よ」
「何であいつが?」
「この前うちのシマを荒らしたことでボスにやられたのよ」
「なるほど、その仕返しって訳か」
「そう。ブツの場所さえ探してくれれば後はこっちでどうにかするわ」
「わかった。報酬は?」
「この“マタタビ”でどうかしら」
「3日後、またここに来てくれ」
「よろしく頼んだわよ」
チリンチリンッ
さて、仕事だ。
一杯のミルクを飲む暇もない。
「ニャーオ」
そう彼はため息をつくと、颯爽と四つ脚で掛けて行った。
『束の間の休息』
久しぶりね。
初めて高校で知り合ってから就職するまでの7年間、ずっと一緒に居たから、こんなに遠く離れて寂しかったわよ。
そんなタイプじゃないと思っているだろうけど本当よ?
最後にあなたと会ってから随分経ったじゃない?
けど、やっぱりあなた程の人と知り合うことなんてなかったわ。
あの頃あなたと居て、何かあるわけでもないのに毎日楽しくて幸せだったわ。
大げさだなんて言わないでよね。
だって私あなたのことが好きだったのよ。
気持ちを打ち明けて気まずくて一緒に居られなくなるくらいならと思って言わなかっただけよ。
就職して離れてからも連絡取り合ってたけど、急に連絡くれなくなったじゃない?
特に気にしていないふりをしていたけど、ずっと嫌われたんじゃないかって怖かったわ。
あなたの笑顔に弱いの知っているでしょう。
こんなに大事な事隠していたなんてショックだけど、今回も許すわ。
これが最後なのだからね。
あなたのその笑顔と楽しかった日々はきっと忘れないわ。
「さよなら」
あなたの好きな色の花よ。
周りは泣いているけど私は泣かないわ。
だってあなたも私の笑顔が好きだったでしょう?
『さよならを言う前に』
天気予報では曇りで済むはずだったのに。
生温い空気を残しながら灰色の雲からは大量の雨が降っている。
近くに屋根のある場所があって良かった。
隣りの彼女もここに避難してきたようで、だいぶ濡れている。
簡易なベンチに腰掛け、濡れている事には気にもとめず、ぼーっと空を眺めている。
その表情はなんだか悲しそう。
きっと彼とケンカ別れをしてきたのだろう。
この雨は彼女の心模様を示しているのだ。
この雨がもう少し続くようならば声をかけよう。
僕が晴れにしてみせるよ。
―――――――――
今日は災難続きだ。
早々に帰ろうとしたところ、先生に呼び止められ手伝いをお願いされた。
予定より遅くなったから近道しようとしたらこの雨。
全身ずぶ濡れに加え、雨宿り先にいたこの男。
こいつは学校でも有名な勘違い男。
自分を少女漫画のイケメンとでも思っているらしい。
それだけならまだいいが、自分の妄想と現実の区別がつかないのか色んな女子によくわからないイケメンムーブをかましてくる。
そして、かれこれ10分くらいこちらを見つめている。
たぶん何か妄想している。
そろそろ動き出しそうだな。
よし、この雨が止まないならば覚悟を決めて走って帰ろう。
『いつまでも降り止まない、雨』
「えー、マジか。それじゃあ春子は好きな人いないの?」
「えっ、私?いや、いないかな」
「怪しい!」
「絶対いるでしょ!」
「いないって!」
「じゃあさ、気になる人は?」
「えー、うーん、大島とか?」
「何で何で!?」
「なんとなく」
「えー、理由あるでしょ!」
「じゃあ、背高いから?」
「ああ!春子背高いから、春子より高い大島いいじゃん!」
「絶対お似合いだわ!」
「確か大島キレイ系好きって言ってた!」
「春子かわいい系着ないしピッタリじゃん!」
「これは行くしかないっしょ!」
「えぇ、いいよ、そんな話したことないし」
「じゃあ私セッティングするわ!土曜出掛けよう!」
「いぇーい、皆参加で!」
「じゃあ聞いてくるよ!」
「ダッシュねー!」
――
あーあ、一言も好きって言ってないんだけど…
それに、かわいい系似合わないから着ないだけでかわいいもん好きなんだけどな。
というか、このグループ楽しいには楽しいけどこのノリがな…
『好きじゃないのに』
輝く夜、それは月を指しているのか、星を指しているのか、現代に至っては夜景を指しているのか。
静かな部屋から外を眺める。
「どうしたんだい、電気もつけないで」
「ううん、ここからの眺めはやっぱりいいなって」
「新しい部屋気に入ったようで良かったよ。いつでもおいで」
「ありがとう」
そう言って男に抱きつく。
ベッドに倒れ、覆いかぶさる男の後ろからは月が監視している。
いくら高い所へ登っても届かない。
今度はなぜ迎えに来ないのか。
大切な人はいなくなった。
寄ってくる者は皆私の身体が欲しいだけ。
私の気を引くために様々な物を用意する。
―早くかえりたい
月を睨みつける。
『月夜』