君を探して…
これは一昨日の夜のことである…
眠っていた私は、誰かが廊下を歩く足音で目を開けた。
姑様がトイレに行くのかな…
そんな感じの足音だった。
しかし足音は、トイレと反対の私の部屋の前へ…
そのまま部屋に入る様子に、思わず寝たふりをした。
足音は私の枕もとに止まった。
顔をのぞき込んでいる!?
今更寝たふりをやめるわけにいかない。
目を閉じたまま我慢する私。
数分が過ぎてだんだん心配になる…
もし、今、目を開けたとき
ナタを振り下ろすところだったらどうしよう?
無理だ!
イヤな想像しかできない。
と、次の瞬間
額に暖かい感触が…?
触られているわけではない。
例えれば、お日様が当たっているような温さ。
あれ?
気配が消えた感覚…
しかし私は目を開けることができなかった。
開けたら見てはいけないものを見てしまう…
そんな怖さがそうさせた。
朝になった。
私は生きていた。
あのとき、私の枕もとに来たのは誰だったのだろう…
今となってはもうわからない。
星…
昔、子供らとテレビアニメを観ていた。
オープニングの曲で姪っ子のテンションは最高潮に達する。
♪おなじ くにに うまれたの
この歌詞
♪同じ地球 (くに) に生まれたの なのだ。
私もあなたも宇宙人。
同じ星、そして悠久の時の流れの中の一瞬に
ここで出会えた奇跡……
まさにミラクルロマンスだ。
question…
私はどこから来て…どこへ行くんだろう……?
そうそう、そういえば今日、ひとつ歌が生まれた。
少しの間休んでいたけれど、また作ろうか?
いや、あれは作ろうとしても作れない。
自然に生まれるのを待つだけ…。
では今日生まれた歌を書こう…
法を説く釈迦の右手のかたちして医療廃棄の手ぶくろ青し
あの日の温もり……
五年程前、一緒に仕事した女の子がいた。
彼女は学生時代に手話サークルで活動していて
彼女の手はとても雄弁だった。
私も手話を話せるようになりたくなった。
図書館に通い、本を探して少しずつ覚えた。
まずは五十音から。
五十音を覚えたところで
覚えたことを彼女に打ちあけた。
彼女はとても喜んで
五十音を私とコラボしてくれた。
そして最後にひとつの言葉を教えてくれた。
「ありがとう」
左腕を胸の前に出して右手の手刀でトンとする仕草…
これが「ありがとう」だと。
その後、彼女は職場を去った。
彼女と離れて、私の手話は五十音から足踏み状態になり
最近では五十音も怪しくなってしまった。
けれど、
あの日の「ありがとう」はずっと頭の隅にあった。
なんとかして「ありがとう」を使える人になりたかった。
そう、普通に手話でありがとうを使いたかった。
まずは練習をした。
自然に使うためには、手が言葉を覚える必要があった。
頭で考えていては遅いのだ。
…なかなかチャンスは訪れず数年が過ぎた。
しかし、それは突然やってきた。
数日前のことだ。
車を運転中、一時停止で止まった私に、
優先道路上のダンプの運転手が道を譲ってくれた。
頭を下げながら、私の手が「ありがとう」と言ったのだ。
ああ、言えたんだ!
相手に伝わったかどうかはわからない。
でも、私の手は確かに言えた。
私はひとり、にまにまとしながら
一歩踏み出せたことを喜び
あの日の彼女に感謝をした。
一輪の花……
私の実家の隣に
私より少し年上のお兄さんが住んでいた。
これは二十年ほど前の話だ。
ある日、母が洗濯物を干していた。
塀越しにお兄さんが花の世話をしていた。
お兄さんは一人暮らしだった。
玄関に、大きなカメを置いてメダカを育て
庭は花でいっぱいだった。
「綺麗ですね。」と母が花をほめると、
「たくさん増えましたから好きなだけ持っていってください。」
と、お兄さんは言ったそうだ。
母は遠慮しながら、その白い花を一輪だけ貰った。
その三日後
お兄さんの家に警察が入って行くのが見えた。
自殺だった。
メダカは引き取られて行った。
母は、当時お兄さんの異変に気づけなかったことを
とても悔やんでいた。
しかし、母に普段と同じように接し
悟らせないようにしたのは
お兄さんの気遣いだったのだろうと私は思う。
お兄さんの家は、今は空き家だ。
月に一度、お嫁に行ったお姉さんが管理をしに来る。
今でも春になると、庭には花が咲き乱れ
あの時くれた白い花も、元気に咲くという。