「羅針盤」
もし人生が航海だとしたなら。
きっと私の羅針盤は母だと思う。
幼い頃は、母が大好きだった。
でも、思春期から大人になるにつれて、嫌で嫌で堪らない時期があった。
真面目で、融通が効かなくて。
すぐに人を信じて利用されて。
お節介だし、世話焼きで煩がられるし。
もう、言う事、やる事全てが鬱陶しいし、言ってる事もやってる事も、全て何だか的外れだと思ってた。
すぐに人を信じて騙されて、利用されて、馬鹿にされて。
若い頃は見ていて腹も立ったし、正直、馬鹿だとも思ってた。
そんな母に反発して、道を逸れてしまった事もあった。
でも、自分があの頃の母の年齢になって、母の正しさや善良さを、やっと理解出来た。
ただただ母は善人で、私に身を持って「正しさ」を、「道徳」を、教えてくれていた。
あの頃から又何年も経って。
自分自身も経験を積んで、色んな事を考えて。
あの頃の母の年齢もとうに通り越して。
それでも、やっぱり何かをする時に、迷ったり悩んだして。
そんな時には、考える。
「これは正しい事なのか?」
「あの、善良で、堅実な母が眉を顰める様な事じゃないか?」
損得ではなく、人として正しいかどうか。
自分を誤魔化していないか、ズルをしていないか。
自分にも、人にも、言い訳をしていないか。
勿論最終的に決めるのは私自身なのだが、母の生き様はずっと私の羅針盤になっているし、これからもずっと、私の生きる指針となるだろう。
「明日に向かって歩く、でも」
人は皆、明日に向かって歩いてる。
生まれ落ちたその瞬間から、避けられない明日へ、その先にある死へ向かって、歩いてる。
老人も若者も。金持ちも貧乏な人も。
人種も性別も関係なく、皆に平等に時は過ぎ、死が訪れる。
でも。
それを無駄にするのか、有益にするのかはその人それぞれで。
同じ方向を向いて歩いて居ても、同じ物が見えているとは限らない。
それぞれに見えるモノ、感じる事は違っていて。
だからこそ、一人一人が、それぞれの力でしか作れないモノがある。
どうせ避けられない、いつかはやって来る「死」ならば。
精一杯、生きよう。笑える位、足掻こう。
自分が歩いた道を、誇りに思える様に。
「ただひとりの君へ」
世界中に沢山の人がいて。
私も貴方も、その中のただ一人でしかなくて。
何か特別な事を成し遂げた訳でもない。
特別綺麗でもなく、優秀でもなくて、ただの普通の人。
でも、私は知ってる。
貴方の優しさや、善良さを。
見知らぬ他人に思いやりを持って接したり、遠い国の悲しいニュースを見て涙したり、「自分に出来る事はこれ位だから」って、決して裕福ではない中から募金したり。
ちっぽけかもしれない。
誰でも出来る事なのかもしれない。
でも、貴方が善人な事は事実で。
何処にでも居る人だけど、私にとってはかけがえのない、ただ一人だけの貴方で。
そして、貴方だけではなく。
きっと、私も、あの人も、その人も。
全ての人がきっと、誰かにとってのただ一人の人だと思うから。
だから、全ての人が皆に優しく、皆を大事に出来る世の中になればいいと思う。
綺麗事だけど、ホントにそうなれれば、皆の優しさの輪が繋がって、皆が幸せで居られるのに、って思う。
皆が、皆の、たった一人の大切な人の為に、優しくなれるといいなって、心から、思う。
「手のひらの宇宙」
子供の頃から、万華鏡が好きだった。
キラキラしてて、見る度に違う世界が見えて。
まるで、綺麗な空が、海が、世界が、宇宙が、私の手の中にある様に思えた。
大人になった今でも万華鏡は好きで、お店とかで見かけるとつい手に取る。
昔からのオーソドックスな万華鏡も勿論良いけど、昔とは違って、色んな種類のが出てる。
それぞれに綺麗で、それぞれに違う世界が広がってる。
同じ模様にはならなくて、その刹那を愛おしむ。
単純に綺麗なモノを綺麗と思える、そんな幸せを噛み締めながら、目の前の綺麗なモノに没頭する。
そんな、贅沢な時間を過ごせる今日に、感謝しながら。
「風のいたずら」
冷たい風が吹く。
コートを着ていない私は、制服の襟元を合わせる様に、手でぎゅっ、とする。
さっむ。
手も冷たいし、多分鼻もほっぺも真っ赤になってると思う。
昔から、寒くなるとすぐにほっぺたが赤くなって、リンゴ病じゃないのに疑われて、保育園や学校から帰されてた。
昭和の子供みたいで恥ずかしいんたけど。
寒さの余り、自然と足が早くなる。
早く温かい家に帰りたいのに、冷たい風が吹いて前に進みづらい。
……急に風が当たらなくなる。
前の歩道の落ち葉は風に舞ってるのに、私の後ろだけ、風が止まってる。
訝しく思って振り返ると、貴方が、風を塞ぐ様に後ろを歩いてた。
「風除け位にしかなれんけど。」
ぶっきらぼうに言う貴方。
「アリガト。でも、後ろで風除けしてくれるより、横に居て手繋いでくれる方が暖かいけど。」
友達から恋人同士になって。
気安いセリフは言えるけど、甘い空気になる事はなくて、進展がなかった私達。
風のいたずらのおかげで、今日、一歩進めたよ?
風に感謝!勿論、貴方にも。
有難う。大好きだよ。