「本気の恋」
何度も恋をしてきた。
その度に、この恋こそは本物なんだ、って思ってた。
これが、最後の恋なんだ、って思ってた。
でも大体は間違えてて。
その内に段々、恋とか愛とかよくわからなくなってきて。
思い込みなのかな、とか、流されてるだけなのかな、とか、好き好き言われて相手に刷り込まれちゃたのかな、とか。
でも、よくわからないなりにも、それからも恋をしてきて。
楽しい思いも、切ない思いも、嬉しい思いも、哀しい思いも。たくさんの気持ちを抱えて。
そして、今度こそ本物だって思える貴方と出逢えた。
今までの恋が、おままごとにしか見えない程の、本気の恋をした。
貴方と二人で人生を歩んでいきたいと思えた。
貴方との、一瞬一瞬が、本当に愛しいと思えた。
貴方との将来とか、家族でいる姿とか、色々想像もしたよ?
でも、時が経って、やっぱりこれも違っていた事に気付かされた。
だって、お互い本気の恋なら、本物なら裏切らないよね?嘘つかないよね?傷つけないよね?相手を大事にするよね?
偽物だったんだよね。
見せかけだけだったんだよね。
全てが、最初から虚構だったんだよね。
だったら、偽物なら、いらない。
偽物なら、壊してしまえばいい。
貴方との思い出の品物も。
貰ったアクセサリーも。
デートに着ていった服も。
勿論、一番の元凶である貴方も。
そして、今貴方の隣にいるその人も。
姿を見ても思い出せない程までに、壊してしまえばいい。
欠片も残さず、壊したい。
「カレンダー」
毎月カレンダーをめかるのが面倒で、ついつい何日も過ぎてからやっと、めくってる。
ひどい時は半月近く過ぎてからやっとめくる気になって。
その時にふと、「どうせもう半月過ぎたし、あと半月待てば一回分めくらなくて良くない?」と思った。
直後に我に返り、つくづく自分の駄目さ加減を反省しました······
そして、いつもの如く、反省するだけと言うだらしなさにまた反省······
「喪失感」
ずっと母とは上手くいってなかった、
早くに父を亡くして、女手一つで一生懸命私を育ててくれたのに。
性格が合わないって、価値観が違うって、だから一緒にいると息苦しいって、思ってた。
学生時代は反抗期も重なって、母を避けていた。
大人になったら変わるのかな、って思ってたけど、変わらないままだった。
きっと、このまま一生こうなんだろうな、って思ってた。
でも、母が余命宣告されて、介護をするようになって。
初めて距離が縮まった。
自然と、愛しいな、大事だな、大好きだな、って思えた。
多分お互いに残り時間が少ないから、どこかで時間を惜しんでいて、だから喧嘩したりとかそんなくだらない事に使う時間が勿体なかったんだと思う。
母が亡くなるまでの短い期間だったけど、本当に濃い時間を過ごせて、人生で一番仲良くいられた。
その分、亡くなった後の喪失感は自分で想像した以上で。
今まで経験した事がない程の喪失感で。
「ああ、これで無条件に私を受け入れてくれる人はこの世にいないんだな」って思った。
何だか拠り所がなくなった気がした。
そう思う自分は、本当に母に甘えてたんだな、大事にされてたんだな、愛されてたんだな、って思った。
まだ母を亡くした傷は癒えてないけど、でも母から教えて貰った事。母を見て学んだ事。
全てを大事にしていきたいと思う。
「世界にひとつだけ」
世界には沢山のキレイな物がある。
景色、絵、宝石。
建造物、橋、庭。
楽器の音、心に響く歌声。
心がこもった手紙、人を思いやる心、見知らぬ人への親切心。
気持を伝える為になりふり構わない姿、苦しくても這いつくばって懸命に生きる姿。
有形無形、沢山ある。
世界には沢山の汚い物がある。
ごみ、汚れた物、汚された物。
不協和音、雑音、騒音。
上っ面だけの嘘の言葉、心の入っていない賛辞。
人の事を考えない身勝手さ、人の誠意を踏み躙る姿。
有形無形、沢山ある。
でも、全てが世界にひとつだけ。
キレイな物の裏返しは汚い物。
でも、汚い物の裏返しは又キレイな物で。
見方によっては、キレイも汚いも一緒で。
どんな物も、世界にひとつだけって思って、自分の周囲に感謝して生きていきたい。
ナンバーワンも、オンリーワンも、どっちも大切にしていきたい。
「胸の鼓動」
貴方の胸の中で、貴方の鼓動を聞くのが、好きだった。
トクン、トクンって、落ち着いたリズムが好きだった。
時々、「大好きだよ」って言うと、途端に照れて鼓動が早くなって。
それを聞くのが楽しくて、嬉しくて。
ついつい貴方をからかってた。
私だけがこの鼓動を、この場所で聞ける事が嬉しくて。誇らしくて。
貴方のリズムを覚えてしまう程、貴方に抱きしめられてた。
あれから何年も経って。貴方と長い年月を過ごして。
溢れる程の愛情を貴方に貰って。
本当に幸せな人生を過ごせたのは、貴方のおかげです。
お互い白髪になって、足腰も言う事をきかなくなって。
目も耳も、記憶力まで悪くなって。
それでも、昔と変わらず貴方が好きで。愛しくて。
「生まれ変わっても又一緒になろうね」って、ありがちな約束もして。
もう貴方の鼓動を聞く事はないけど。
貴方の笑顔を見る事もないけど。
貴方の声も聞けないけど。
今日が貴方との最期の日です。
でも、私は本当に幸せでした。
貴方と過ごせた時間が私の宝物です。
貴方に愛された事が私の誇りです。
ありがとう。