それから3ヶ月くらい、週に2回、決まって先生は僕の担当になった。
勉強はやっぱりそんなに好きじゃなかったけど、先生が話す少しどこかの訛りが混ざった言葉が、だんだん耳になじんでいた。
ある日先生は、僕のよく知らない高校生の授業をしていた。僕が知ってる先生は、どこかよそよそしい話し方で、作られたような笑顔で、これ以上は近付くなって言ってるみたいだったのに、その高校生とは友だちみたいにしゃべってた。
先生には、僕以外にも生徒がいるなんて当たり前だし、別に不思議なことでもない。そんなことは分かってた。先生を独占したいとか、そんな気持ちになったわけでもなかった。
やっぱり僕は、他人に心の中まで入ってきてほしくなかったし、先生は、たくさんいる先生の中の1人だった。
だけど明確に少し、先生の作られてない笑顔が知りたくなったんだ。
続く
私にとって彼は、たまに見る走馬灯みたいなものに、刻み込まれて色褪せない大切な思い出になった。
19歳の冬だった。
真面目でおとなしい子なので、大丈夫ですよ
そう言って任されたはじめての生徒が彼だった。
初対面の彼のことは、緊張でほとんど覚えていない。
長い睫毛が億劫そうに動くのだけが印象的だった。
口数少なく、最低限の返事だけをよこしてくる彼の横顔に、そんな印象を持ったんだ。
自分のことで精一杯で、彼の心の中まで覗く余裕なんて、その時の私にはなかった。
その時にあったのは、「はじめての生徒」という肩書きをもつ中学2年の男の子という存在感だけだった。
続く
僕はときどき、あの頃のことを思い出す。
はじめてその人に会ったのは、確か中2の冬だった。
緊張した顔して挨拶をするその人は、特別美人でもなく、特別醜くもなく、中2の僕の気を引く存在ではなかった。
彼女はその日から、僕の先生になった。
その塾へ通って3年たっていたけど、
あぁ、今日ははじめて見る先生だな。
そんな風な感想を持ったと思う。
いつもの授業。
僕は勉強が好きでもなかったし、成績も普通。
別にそれで満足していたし、将来への欲望もなかった。
先生に特別な何かを求めてもなかったし、そんなもんでよかった。
妙になれなれしい人は好きにはなれなかった。
彼女は、なんか壁作ってたし、こっちもこれ以上踏み込まれない安心感みたいなものはあった。
続く
少し離れて前を歩く君
青い傘を雫が伝う
少し高く響く靴の音
ぬれる鞄を気遣う
ふわふわゆれる長い髪
今日はグレーのスーツか
すべてがほんのり色づく時間
いつも歩くこの道で
時々出会うこの景色
だけど今日は少し違う
僕にも少し勇気があれば
いや、でも…
伝えたいんだ
「ストッキング伝線してますよ」