春九色

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私にとって彼は、たまに見る走馬灯みたいなものに、刻み込まれて色褪せない大切な思い出になった。

19歳の冬だった。
真面目でおとなしい子なので、大丈夫ですよ
そう言って任されたはじめての生徒が彼だった。
初対面の彼のことは、緊張でほとんど覚えていない。
長い睫毛が億劫そうに動くのだけが印象的だった。
口数少なく、最低限の返事だけをよこしてくる彼の横顔に、そんな印象を持ったんだ。
自分のことで精一杯で、彼の心の中まで覗く余裕なんて、その時の私にはなかった。
その時にあったのは、「はじめての生徒」という肩書きをもつ中学2年の男の子という存在感だけだった。

続く

3/5/2023, 10:25:10 AM