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3/23/2026, 2:33:52 PM

『特別な存在』

ちりりり ちりりり。

鈴虫たちが捧げる恋の唄。
あなたに届けと夜空へ響く。

ちりりり ちりりり。

そこに居るのに、どこにも見えない。
届かぬ返歌の光は闇の中。

ちりりり ちりりり。

会いたいな、会いたいな。
寂しいな……寂しいな……。

ちりりり ちりりり。

明日になったら会えるかな
明後日はもっと綺麗だろうな。

形を変えては闇に溶け。
大きく弧を描いて光を放つ

ちりりり。

この世界で、ただ一つ。

特別なあなたが愛しいな。

3/22/2026, 5:46:05 PM

『バカみたい』

あーあ、私ってバカみたい。

だって、なーんにも仕事ができないんだもん。

だって、少しだって頭がよくないんだもん。

だって、誰と話しても会話についていけないんだもん。

だって、もう生きていても苦痛しかないし、毎日のように自分の顔を殴って、手足を切り裂いて、死にたい、死にたいって、願い続けているのに。

まだ、生きてる。

まだ、死んでない。

あーあ、私ってバカみたい。

もう死んだ方が楽だって、分かってるのにね。

なのに今日も手羽先を食べたの。

美味しいって、思ったの。
お腹はそれでも、空いちゃうの。

その後に、リストカットをしたの。
このまま出血多量で死にたいって思ったの。
でも怖くなって止血したの。

あーあ、私ってバカみたい。

美味しいものを食べて満足して、自傷して死にたくなって、でもなんだか怖くなって、生きてしまったんだもん。

死にたくて、自分を傷付けてばかりなのに。

なんだか、普通に、生きている。

あれ、もしかしてさ。

つまり私の人生って

死にたいと苦しみながら生き続けるだけの人生?

え、なにその人生。

もう死んじゃえよ。
でも明日もご飯を食べるんだろうな。

あーあ。
私って、本当に、救いようのないくらいに。


バカみたい。

3/21/2026, 7:11:44 PM

『二人ぼっち』

お父さんは戦争に行ってしまった。

残された僕と妹は、雨風を凌ぐだけの木造りの家屋の中で、身を寄せ合って震えていた。

先日、4歳の誕生日を迎えたばかりの妹は、骨と皮がくっつきそうな程にやせ細った身体をよじって、僕に身を預けてくる。

僕もまた、生きているのがギリギリな妹を愛するように、その華奢な身体を受け止めてあげる。

妹を抱きしめる腕が、ただただ、痛い。
指先の皮膚が剥がれ落ち、骨が張った妹の体に、僕の皮と骨だけの腕がぶつかり痛む。

あぁ、腕が、全身が、痛い。

父が戦争に行ってから、もう何日が経っただろう。
最後の食料は1週間前に底を尽き、僕たちの命を繋ぐのは、時たま降り落つ雨の雫だけ。

音も動物の気配すらない世界の中に、僕と妹は二人ぼっちで寄り添いあっている。

気が付けば。

妹の呼吸が止まっていた。

瞳は薄目で開かれており、光の無い瞳孔が虚無を見つめている。

死。

ああ、ついに僕はこの世界にひとりぼっち。
共に生きた妹もついにこの世を去ってしまった

でも安心しておくれ。
お前を一人にはしないから。

僕は妹の亡骸を強く抱きしめる。

全身の骨が傷んで軋む。
ゆっくりと、瞼が落ちていく。


数日後。

山奥にぽつんと建てられた家屋の中で、痩せ細った骸骨のような体を寄せあって、この世を去っている兄妹の死体が発見された。

軍の計算によれば、兄妹は実に50日もの間、二人ぼっちで命を繋いでいたという。

3/20/2026, 1:48:26 PM

『夢が醒める前に』

私は昔から、写真が好きじゃなかった。

目の前の光景は、ひとつ、またひとつと、移ろい崩れ、新たな新芽が葉を開くように、知らない世界へ変わりゆく。

人も他の動物も、ただその美と崩壊の繰り返しの中を、流れるように生きている。

取り戻せない今を懸命に抱き締めるからこそ、命は輝くのだと思った。

だけど、そんな無常の当然を受け入れがたく思い、美を永遠に保存しようと愚かにも嘆願し、その瞬間をいつまでも抱きしめたいと、みっともなくシャッターに指をかける。

写真という媒体ほど、人間の弱さと受容耐性の低さを、如実に表すものはない。

だけど同時に。
写真こそ、人間の心を表すものだとも思う。

いつか醒めて無くなる美を、消えてしまう前に保存しておきたいと願う心は、きっと誰も否定してはいけない。


それでも私は、写真を撮る事は無いだろう。

写真に保存してしまえば、記憶に保存する必要は無い。
なぜなら、また、何時でも、見れるから。

でも二度と見れない光景だとすれば、きっと私たちは、その景色を忘れないよう、心を込めて見つめるに違いない。

意識の全てを懸けて見つめるから、消えゆく景色が、心と記憶に同化するのだと信じている。

瞳のフィルムが保存した美しい景色こそ。

いつの日にか振り返った時。
私だけの想いが折り重なり、鮮烈な郷愁と共に、あの時以上の夢を描けると思うから。

3/19/2026, 11:30:31 AM

『胸が高鳴る』

今日は待ちに待った記念日!

幼い頃から、ずっと、この日を迎える事を夢見ていた。

それはいつ訪れるのか分からないけれど、誰の人生にも1度だけ訪れる、奇跡のような出来事。

そしてついに今日、僕はその日を迎えたのだ。

その瞬間の事を考えると、心が熱く震えるようで。
全身の細胞が喜びの舞を踊り上げているのが、ありありと実感できる。

期待の心音が内側から聞こえる。
鉄が軋む音が外側から聞こえた。

音が、近付いてくる。

あぁ、ついに。
僕は夢を叶える事ができるのだ。

幼い頃から憧れて、だけど怖くて、怖くてたまらなくて。その記念日を迎えられない自分が、あまりにも憎らしくて、許せなくって。

ずっと、自分を否定し続けて、生きてきた。

でもついに、僕はその世界に飛び込む切符を手に入れたのだ。

勇気と諦念という名の、切符を。

僕は静かに目を閉じると。

虚っぽな空へと、一歩を踏み出して行った。

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