『夢が醒める前に』
私は昔から、写真が好きじゃなかった。
目の前の光景は、ひとつ、またひとつと、移ろい崩れ、新たな新芽が葉を開くように、知らない世界へ変わりゆく。
人も他の動物も、ただその美と崩壊の繰り返しの中を、流れるように生きている。
取り戻せない今を懸命に抱き締めるからこそ、命は輝くのだと思った。
だけど、そんな無常の当然を受け入れがたく思い、美を永遠に保存しようと愚かにも嘆願し、その瞬間をいつまでも抱きしめたいと、みっともなくシャッターに指をかける。
写真という媒体ほど、人間の弱さと受容耐性の低さを、如実に表すものはない。
だけど同時に。
写真こそ、人間の心を表すものだとも思う。
いつか醒めて無くなる美を、消えてしまう前に保存しておきたいと願う心は、きっと誰も否定してはいけない。
それでも私は、写真を撮る事は無いだろう。
写真に保存してしまえば、記憶に保存する必要は無い。
なぜなら、また、何時でも、見れるから。
でも二度と見れない光景だとすれば、きっと私たちは、その景色を忘れないよう、心を込めて見つめるに違いない。
意識の全てを懸けて見つめるから、消えゆく景色が、心と記憶に同化するのだと信じている。
瞳のフィルムが保存した美しい景色こそ。
いつの日にか振り返った時。
私だけの想いが折り重なり、鮮烈な郷愁と共に、あの時以上の夢を描けると思うから。
3/20/2026, 1:48:26 PM