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3/19/2026, 11:30:31 AM

『胸が高鳴る』

今日は待ちに待った記念日!

幼い頃から、ずっと、この日を迎える事を夢見ていた。

それはいつ訪れるのか分からないけれど、誰の人生にも1度だけ訪れる、奇跡のような出来事。

そしてついに今日、僕はその日を迎えたのだ。

その瞬間の事を考えると、心が熱く震えるようで。
全身の細胞が喜びの舞を踊り上げているのが、ありありと実感できる。

期待の心音が内側から聞こえる。
鉄が軋む音が外側から聞こえた。

音が、近付いてくる。

あぁ、ついに。
僕は夢を叶える事ができるのだ。

幼い頃から憧れて、だけど怖くて、怖くてたまらなくて。その記念日を迎えられない自分が、あまりにも憎らしくて、許せなくって。

ずっと、自分を否定し続けて、生きてきた。

でもついに、僕はその世界に飛び込む切符を手に入れたのだ。

勇気と諦念という名の、切符を。

僕は静かに目を閉じると。

虚っぽな空へと、一歩を踏み出して行った。

3/18/2026, 1:52:28 PM

『不条理』


あなたは明日、血を吐いて病院に運ばれる。

あなたは明後日、胃カメラを飲まされて、無限に吐いている苦痛に耐えながら検査をする。

あなたは三日後、胃がんの可能性を医師に指摘される。

あなたは一週間後、その腫瘍が悪性である事が、生理検査により確定する。

あなたは二週間後、ステージ3の胃癌を摘出する手術を受ける事になる。

あなたは二週間後、麻酔で眠ったまま、目を覚まさずに生涯を終える。


そんなこと、自分には起こらないと思うだろうか?

でも確実に、誰かの人生で、訪れうる出来事だ。

私たちはそんな不運が自分や家族、友人、恋人に降りかからないことを祈りながら、日々を生きている。

だけど不条理の趣味は、祈りを踏み潰す事。


今日もどこかで、救急車のサイレンが、遠く響いている。

3/17/2026, 11:09:22 AM

『泣かないよ』


「ごめんなさい。
ママ、パパ、ごめんなさい。

泣いてごめんなさい。
うるさくてごめんなさい。

ママを怒らせてごめんなさい。
パパを怒らせてごめんなさい。

もう泣かないよ。
いい子になったから。

もううるさくないよ。
ずっと静かにしてる、から。

だから、お母さん、お父さん、帰ってきて

お腹すいたよ。
いつになったら、帰ってくるの?

もう泣かないから 。
だからもう怒らないで。
叩かないで。蹴らないで。

帰ってきて。

ママ、パパ、だいすきだよ」


それが、iPadに録音されていた、宮崎優香ちゃんの最後の言葉だった。

1ヶ月間。
ゴミ屋敷の中に放置されていた優香ちゃんは、ひとりぼっちで、この世を去っていた。

死因は栄養失調。

腐敗しかけた死体が発見された一週間後、別のアパートで普通に生活を送っていた35歳の男性と28歳の女性が、保護責任者遺棄致死罪に問われ、逮捕された。

4歳で孤独死を迎えた優香ちゃんが、最後に残した両親へのメッセージは、SNSを通じて日本中に広まった。





3/16/2026, 2:21:00 PM

『怖がり』

生きるって、怖がる事だと思うの。

だってね、何も怖がらない人は、死んじゃうから。

高い所を怖がらない人は、高いところに登っちゃう。
暗闇を怖がらない人は、暗闇に入っちゃう。
蛇を怖がらない人は、蛇に近付いちゃう。

ビビりな性格は、よく馬鹿にされたり、笑われたりするけれど。

だけど、ビビりだからこそ、大切な命を守れる

勇気を持たないと手に入らないものもあるけれど。

怖がりというのは、大切なものを守る才能を、あなたが誰よりも持っている証。

今はまだ、色々なことが怖くて、何もできないかもしれないけれど。

生き続けていれば、怖がりの精度が上がって、本当に怖い事と、意外と大丈夫な事が判別できるようになるはず。

だからね、たくさん怖がって大丈夫。

それは、いつかきっと。
あなたの生きる知恵になるから。




3/15/2026, 2:42:37 PM

『星が溢れる』

俺ほどバスケが上手い奴はいない。

高校時代はインターハイ優勝と得点王の表彰に輝き、一躍スター選手として名を馳せた。

大学に進んでも変わらない。

俺のドリブルを止められる奴はいなかった。
俺のシュートはどこからでもネットを揺らした。

大学1年生でスタメンとして、インカレの優勝も果たした。

当然、気付く。
俺は稀代の大天才なのだと。

更にプレイスタイルも攻撃的で絵になる速攻性。

俺は紛れもなく、本物のスターだった。

そして、NBAへの挑戦を決意し、アメリカへ飛んだ。



ベンチにも入れなかった。



意味が、分からなかった。
自分がベンチにすら入れなかった事に、対してではない。

目の前で繰り広げられる、本物の超新星たちによる、異次元なまでの試合展開に対してだ。

あまりにも自分の理解と、能力の限界を遥かに超えていた。

無理だ。勝てない。勝てるわけが無い。
俺とは、生物が違いすぎる

当然気付く。

俺は本物のスターでは無かったのだと。


その2週間後。

俺は日本に帰国してプロチームに入り、その年の国内リーグ得点王に耀いた。

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