寝ても覚めても、悪夢の中にいるような心地だった。
朝、目覚めると、ふたり分の空白がある。世界が、ひび割れ、欠けていた。
いつまで続くのか分からない空白。見たくない癖に、自らの手でエンドマークを押すことも出来ずにいる。
終わらせたくない。いつまでも結末には辿り着きたくない。
真実よりは、終わらない空白の方がマシなんだ。
でも、オレの世界は、閉じたままではいられなかった。
それは、優しい月明かりのせい。
慣れって怖いよな。おまえが隣にいるのが当たり前になっているなんて、とても怖いことだよ。
日常が破壊されたあの日に、もう何もよすがにしないと思ったはずなのに。
でも、オレはもう怖がるだけのガキじゃない。役割を果たして、最善を尽くそう。
あの日は、もう戻らないかもしれないけど、また新しく日常を作り直すんだ。
その家族が、本当に幸せかどうかなんて知らねぇけど。窓から覗いたその家族の表象は、幸せそうだった。
明かりを避けるように、影の中を歩く。
何事もなく、日常を送る数々の明かり。それが、オレには眩し過ぎた。
自宅に帰り、明かりをつける。
「ただいま」と言ってみても、返事はない。
きっと、いい加減慣れるべきなんだろう。
5-2-2=1
残されたのは、ひとりのオレ。
1+1=2
おまえがいなけりゃ、独りのオレ。
「置いて行かないで」と書いた短冊を、くしゃりと握り、ポケットに突っ込んだ。
代わりに、「平穏無事」と書いたものを吊るす。
おまえはなんて書いたのかな、と、覗き見すると、「麻雀大勝ち」と書いてあったので笑った。
オレも勝ちたいよ。しょっちゅう馬鹿みたいな賭け麻雀をやるオレたちは、本当にアホだ。
ただ、もうこれ以上日常が壊れませんように。それだけ、オレは願った。
真夏。照り付ける太陽から逃げるように、神社の境内の木陰へと向かった。
そこには、先客がいて。それが、君だった。
オレたちは、同じ小学校のクラスメイトだけど、話したことはなく。人見知りの激しいオレは、そもそも誰とも親しくはなく。
でも、君は面倒見のいい奴で、オレに自然に話しかけてくれた。
気安くするなよ。という拒絶を、珍しくオレはせずに、返事をした。
そういう、夏の記憶があれば、よかったな。
オレとおまえは、そんな綺麗な思い出を共有していない。でも、まあ、今も悪くはないよ。