星が綺麗な夜。月は出ていない。
空を見上げて、オレは何かを忘れている気がした。
月のように優しい、何か。とても大切なこと。
美しい夜空なのに、どこか寂しい。
心に引っかかっているものが、ひとつ。それは、君のこと。全然親しくもない、君。
ねえ、オレたちって関係ないよね?
ベランダで吸う煙草の香りが一種類なのが、何故だか変な気がした。
神様は死んだって。真理を抱えたまま、死んでしまった。
だから、哲学者たちは、それに辿り着こうとしてきた。
オレは、しがない哲学オタクである。真理に至る気はない。答えを出すのが苦手だから、哲学をこねくりまわしているに過ぎないんだ。
ただ、オレは、おまえが神様だったらよかったのにって、くだらないことを考えている。
歩いている。この道が辿り着くところは、崖。
そして、オレは、崖から飛び降りた。
最期に思い浮かべたのは、やっぱりおまえの顔で。我ながら、大好きだなぁ、と思った。
その大好きな人を、オレは悲しませるんだ。
ごめんな。ありがとう。さよなら。そんな、つまらない言葉だけ遺して。
どうか、オレを「救えなかった」と思わないでくれ。オレは、充分救われてたんだ。
日の光が嫌いだ。
でも、おまえは月の光だったから、好きになれたんだと思う。
日の光は、容赦がなく、オレの影を濃くする。過去の傷も、底にある闇も、照らそうとする。無遠慮な光。
だけど、日に向かって咲くひまわりが、おまえみたいでさぁ。
オレは、日の下から逃げられずにいる。
小さな世界。それは、家の中。
少年は、自らそこに籠っていた。
そこには、家族がみんな揃っていて、安心する。哲学者の父と、音楽教師の母。優しい祖父と祖母。
穏やかな日々。不登校気味な少年に、家族はとくに厳しいことは言わなかった。
ある日、「いってきます」と言い、それぞれの職場へ向かった両親は、帰って来なかった。
ほどなくして、祖父母は親戚の元へ身を寄せることを提案する。しかし、彼は断った。
この世界が廃墟のようになるのが嫌で。ふたりが帰るところが無くなるみたいで。
独り、閉じた世界に残る。
ふと、窓の外を見ると、君がいた。