この世界が運命で編まれているのだとしたら、それは残酷なことだと思う。
おまえの運命は、たくさんの人の元へと繋がっていて、オレもそのひとりなんだろう。
糸が見えなくて、よかった。見えていたら、オレという祟りは、自分のもの以外は全て切っていただろうから。
出来ることなら、オレの糸でおまえを絡めとって、閉じ込めてしまいたいよ。
今年の夏も、似たような夏。
日射しにうんざりして、デケェ雲見て、ひまわり畑を横目にして、アイス齧りながら、独りきりの家に帰る。
よく、考えることがある。この日常を壊す方法。
例えば、おまえに「好きだ」と告げてみるとか。
でも、壊せないままでいる。この手で終わらせるまでもなく、日常なんてものは、どうしようもなく壊されてしまっているし。
ただ、オレは、かつての夏の残りカスを握っている。
影の下に逃げても、日の光は容赦がなく。本当は、逃げ場なんてないんだって思い知る。
コンビニで、アイスクリームをひとつだけ買う。
前は、家族みんなの分も買っていたっけな。
帰路を歩きながら、ソーダ味のアイスを齧る。
ほとんど脱け殻の自宅に帰ると、メッセージが届いた。
『もうすぐ行く』
返信をする前に、インターホンが鳴る。
少し、ソーダがはじけるみたいな気持ちになった。
どっか連れてって。
あの女の声がする。甘ったるくて、少し寂しげな。
でも、この声は、オレにしか聴こえないはず。
「なぁ」
「ん?」
「……なんでもない」
ここから、おまえが連れ出してくれるワケがない。ここを出ることがあるとすれば、きっとオレはひとりだ。
ねぇ、どっか連れてって。
うるせぇな。言えるか、んなこと。
君と最後に交わした言葉。
「消しゴム貸して」「うん」とかだっけ?
そんな相手のことが好きかもしれない。何かの間違い?
遠い人なのに。物理的にも、精神的にも。
故郷は遥か、遠く。関係性は、薄く。
何故か、心に穴が空いているような気がするんだ。
大切なパーツを落としたような。
一体、何が欠けているのだろう?