私の名前
名前を呼ばれることはあまりない。だいたい名字で呼ばれることが多い。
だからたまに誰かに優しく名前を呼ばれている人を見ると、その人の名前が幸せに満ちた音に聞こえて少し羨ましくなる。
私の幸せの音はきっともう聞こえないだろうから、帰りにコンビニで売り出し中の限定のミルクティーを買って好きなアーティストの曲を聴きながら帰ろう。
――とびきり幸せな曲と甘いミルクティーが、私をすくい上げてくれるから多分大丈夫。
日々家
視線の先には
視線の先には知らない景色。夏の日差しが手招きするように道を照らす。少し先にはキラキラ光る海と青い空が広がる。何度目かの夏に、私は思い切って来てみたかった場所に降り立ったのだ。年甲斐もなく何の計画も立てないで。
それでもなぜだろう。今、一番息がしやすい。胸が楽しみで満たされる。
何か起こりそうな夏の空気に身を任せてしまえ。そう思った。
日々家
私だけ
私だけ、いつまでも一人で海を眺めている。
自分で選んで此処にいる。いつかきっと夜が明けると疑わず、唇を噛んで情けなく泣きながら此処にいる。
日々家
遠い日の記憶
忘れたなら、忘れたままでいてください。
でももし、ふとした瞬間思い出したら、駆け足で戻ってきてください。
そこに私が居なくても、きっと思い出だけはそこにあるから。
日々家
空を見上げて心に浮かんだこと
眩しすぎる太陽を睨むように顔を上げた瞬間、空の青さに目を奪われる。
「帰りたい」
無意識に口からその言葉が出た。
夏休みに流れるアニメ映画を見ながらアイスを食べていた頃の空気に包まれて、片手に持つ書類の入った鞄とか責任とか放り出して帰りたくなったのだ。
しかし、そんな事出来ないのは分かっている。もう俺は大人になってしまったのだから。
ビジネスシューズを鳴らして、俺は夏の空の下を再び歩き出した。
日々家