日々家

Open App
2/7/2024, 12:08:36 PM

どこにも書けないこと

真っ暗な部屋の中、窓の外からぼんやりとした明かりが入る。
カーテンを開けると雲の間から月が顔を出していた。どこも欠けることなく、優しい光を発するそれは小さく笑っているように見えた。
寂しがりが居るとこうして月は誰かを照らすのだろうか……。
月をただ見つめていると、次第に形が滲んでいき、ゆらりゆらりと揺れ始める。私の視界に小さな海が生まれた。しかし、すぐにそれはぽたりと落ちる。そしてまたひとつ、止まらず溢れ出ていく。
この感情を誰かに伝えることは一生ないだろう。きっと誰にも伝えられないだろう。それは私が怖がりだからだ。
だから今だけはどうか弱さを曝け出すのを許してほしい。
また明日も望まれる姿で生きられるように。

――情けない姿を見ても月は隠れず、泣き終えるまで私を照らし続けてくれた。

                        日々家

2/6/2024, 11:34:54 AM

時計の針

机には淹れたてのミルクティーとクッキー、そして読みかけの本が一冊。
ガヤガヤと騒ぐテレビを消すと、部屋の中がしんと静まる。しかし、しばらくすると耳に秒針が動く音が届き始めた。カチコチと鳴るそれは、まるで時計の心臓の音のようで私は好きだった。
カチリと秒針よりも少し重みのある音が鳴る。顔を上げて確かめると、針は一五時を示していた。待ちに待ったご褒美タイムだ。
私は椅子に座り、ミルクティーを一口飲んでから自分の時間に入っていった。

                        日々家

2/5/2024, 12:02:06 PM

溢れる気持ち

もしも貴方が優しい笑顔を浮かべて私の名前を呼んでくれたら、雨がぽつりぽつりと降り出し、眠る蕾達に合図を送るでしょう。
もしも貴方が私と同じ気持ちならば、雨は止み、次に太陽が顔を出し、じんわりと暖かくなる感覚と共に淡く美しい色に染まった花々が咲き誇るでしょう。

――私の世界に春が訪れるでしょう。

                        日々家

2/4/2024, 12:35:13 PM

kiss

メイク中にふと中学生の頃に見た物語を思い出した。
――醜い野獣の姿にされた王子の呪いは、魔法のバラが枯れるまでに誰かを愛し愛されなければ解くことができない。
そんなの無理だと思いながら見ていたが、物語はハッピーエンドを迎えた。
幸せそうに唇を重ねる二人にその年頃が抱くであろう恥ずかしさより、見た目じゃなく心を好きになって触れ合える様を羨ましく感じたのを鮮明に覚えている。

私はメイクが好きだ。私に自信を持たせてくれるから。泣いていた私に背筋を伸ばす力を与えてくれたから。 
「……もしも魔法で綺麗になってた場合、どうなるのかな」
馬鹿らしい。とすぐにその思考を止めてお気に入りのティントを手に取り、唇を彩る。
私は今日も私に魔法をかけて生きていく。



加筆修正したものを再度上げさせていただきました。

作中に例えに出させて頂いた物語の内容に間違いがあったため下げます。申し訳ございません。
ですが、書いたものに反応くださりありがとうございました。今後は気をつけます。

                        日々家

2/3/2024, 12:28:27 PM

1000年先も

今日の空はどこまでも澄んだ青色を広げていた。
昨日、この世が終わるんじゃないかと思うくらいに激しく雨を降らせていたのが嘘のようだ。
草木に残る雫が朝日を反射して、世界をキラキラと輝かせている。窓を開ければ、雨に濡れた後の土の匂いが部屋に広がった。それはとても心地よく、思わず深呼吸して体に深く巡らせる。ふと視線を上に向けると、太陽が満足そうに輝いていた。

この先も、私達のことなんて気にもせず好きなように空は姿を変えていくのだろう。
ならば私もそれを見習い、今日は大好きなコーヒーを飲みながら好きに過ごそう。
さて、勝手に怠ける理由にされた空は怒るだろうか?それとも、そんなの慣れっこだと笑うのだろうか?
「ごめんなさい。でも良ければ一緒に怠けてちょうだい」
返事は当たり前のようにない。おとぎ話の主人公のような事をした自分に恥ずかしさを覚えた瞬間、ふわりと柔らかい風が頬を撫でる。
――まあ、たまにはいいか。と気持ちを落ち着かせ、私はお湯を沸かすためにキッチンに向かった。

お気に入りのコーヒーはいつもと変わらず美味しかった。

                        日々家

Next