「代わってあげたい」
「わかってあげられなくてごめんね」
気持ちはありがたいけどね、
私はこんな経験も、こんな思いも、他の誰にもしてほしくはないから。たとえ可能だとしても、まるごと肩代わりしてもらったり、完全に理解してもらうことなんて少しも望んでないんだよ。
あなたにも、君にも、大切なひとにはいつも笑っていてほしいから。悲しいことなんて降りかからないでほしいから。
だから、私だけで十分なんだよ。
…なんて、大切なひとが苦しむのを見るのは自分が耐えられないっていう、ただの私のエゴかもしれない、けれど。
信号待ち。青く、青く澄んだ空をフロントガラス越しに見上げて、どこか遠くに行きたい、と何度思っただろう。
異国の地じゃなくていい。透き通る海もいらない。
私の明日がない、場所。
目が離せない、吸い込まれそうになる、青。
鳴らされたクラクションに、アクセルを踏む。
喧騒にのまれて、思考が日常に溶けていく。
夜のとばりが降りた後、闇にぽかんと浮かぶ、頼りない月。
スピードを抑えず、それを目がけて飛び込んで、弧を描いて落ちていく様を何度想像しただろう。
ゆっくりとブレーキを踏み込む。今夜も届かない。
覗き込んだ月はずっとそこにいて、私を見てる。
澄んだ青すぎる空に、深い闇に鈍く光る月に。誘われて。
こっちだよ、と手招きされているようで。
強い衝動じゃない、
ただ、優しく、呼ばれている。
呼ばれつづけている。
それでもいいから、と縋った君も、
その手を振り解けなかった私も、弱くて。
どんな形でも繋ぎ止めておけるなら、とか、
隙間を埋めてくれて満たされる感覚だとか。
相手を思いやる事より自分の身勝手な感情で
先なんて考えないようにして曖昧さを選び続けていたけれど。
そうやって、与えるフリして、奪っていたの。
心をすり減らしていたのは、お互い様。
上澄みだけすくったような言葉のやりとりに
飽き飽きしてきた頃でしょう?
私はずるいから。知ってたよね、私を引き止めたあの時から。
だから私からは言わないよ。…言えないよ、
君から聞かせて。
そしたら私、ちゃんと頷いてみせるから。
この手、離すから。だから。ね?
これまでずっと違う場所で、違う日々を過ごしてきた二人。
その歩みが重なって今、隣にいる。
もっと早く出逢いたかったな、なんて思ったりもするけれど、お互いにたくさんの出会いと別れを繰り返して、いろんな経験をしてきた今だからこそ、惹かれ合ったのかもしれない、とも思う。
奇跡とか運命とか、そんな言葉で片付けたくはない。
これは、それぞれが選択し続けてきた結果だから。
自分で選んで歩いてきた道の上で、出逢って、自分で手を伸ばして、その手を掴んだ。
ねぇ、出逢ってくれて、選んでくれて、ありがとう。
心配で送ったLINEに既読はつかないまま。
返信がないことが悲しいんじゃないんだよ。
せめて既読をつけてくれたら安心できるのに。
通知で気づいてるはずなのに、後回しにされてるんだろな。
もうあなたに私は必要ないんだろなって。
わかってしまって、それが悲しい。
いつもの「ごめん!」は、もう聞きたくないや。
大丈夫じゃない「大丈夫だよ」も、もう言いたくない。
送信取消をして、新たに文字を打つ。
私とあなたを終わらせるための、一件のLINE。
これがあなたの目に留まるのは、いつ?