NoName

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信号待ち。青く、青く澄んだ空をフロントガラス越しに見上げて、どこか遠くに行きたい、と何度思っただろう。
異国の地じゃなくていい。透き通る海もいらない。
私の明日がない、場所。
目が離せない、吸い込まれそうになる、青。
鳴らされたクラクションに、アクセルを踏む。
喧騒にのまれて、思考が日常に溶けていく。


夜のとばりが降りた後、闇にぽかんと浮かぶ、頼りない月。
スピードを抑えず、それを目がけて飛び込んで、弧を描いて落ちていく様を何度想像しただろう。
ゆっくりとブレーキを踏み込む。今夜も届かない。
覗き込んだ月はずっとそこにいて、私を見てる。


澄んだ青すぎる空に、深い闇に鈍く光る月に。誘われて。
こっちだよ、と手招きされているようで。

強い衝動じゃない、
ただ、優しく、呼ばれている。
呼ばれつづけている。


7/16/2024, 2:36:36 PM