子どもの頃は、たからもの、たくさんあったなぁ。
おもちゃのゆびわ、かわいいしーる、ふりふりのどれすのおにんぎょう、あかいくつ、、どれだけ増えても、どれも大事だった。
大人になって、あの頃よりいろんなものを手に入れられるようになったのに、“ 宝物 ”という響きにふさわしいものを、私はまだ、見つけられずにいる。
明かりを落とした浴室に、灯したキャンドルをそうっと持ち込む。
キャンドルホルダーに埋め込まれた色とりどりの硝子が反射して、きらきらと空間を彩る。
ちゃぷんと全身をお湯に沈めれば、温かさにこわばりがほどけていく。揺らめく柔らかな炎を見つめれば、頭の中が静かになっていく。夢のように煌めくカラフルな光は、私の心にもひとつ、まっさらな光を与えてくれた。
日常に追われる中でも、ほんの数分を惜しんで、ほんの少しの非日常すら愉しむ余裕を無くしたくはないと思う。
温かさは、柔らかさは、心地よいのだと知っている、綺麗なものを綺麗だと思える、そんな心を保っていられるように。
スリルなんていらないわ
名前も付けられないような
穏やかでありふれた日常が
ただそこにあれと願うばかり
喜びと楽しさで満たされていたいけれど
悲しみや痛みと向き合わないわけにはいかないのなら
丁度良いバランスで どうか訪れてほしい
そうしたら嵐に見舞われても
絶望しないで 光が差すのを辛抱して待てると思うから
幸せは過剰には必要ないわ
溢れてこぼれ落ちたものを慌てて集めたりしなくていい
ただこの両手を満たすほどの
数え切れる幸福に 目を細めていたいの
あなたの言葉が、体温が、乾いた草木に優しく降り注ぐ雨のように、私の荒れた心にじんわり染み込んで、潤していく。
それが私の心に行き渡ったことを知らせるように、泪があふれた。
私が気付く前に、私が必要とするものを穏やかに与えてくれるこの人に、私もそうできているだろうか、そうでありたい、と
温かな温度に包まれながら、思った。
私の事よく知りもしない人から言われる言葉なんていいの。
私の事何にも知らないくせに、で済ませられるから。
でも、誰よりも私を知ってるあなたが、あなたがそれを言うんだ、って。たった一言で心を抉られてしまった。
どれだけ真摯に謝られても、放ってしまった言葉は戻らないし、私の感情も無かったことにはならない。
そんなの、あなたが私に与えてくれた数え切れないものの感謝の気持ちで覆ってしまえると思うのに、その思い出を脳裏に描くたび塗り潰されていってしまう。ただただ悲しい、という感情に。
怖くもなったの。
本当はずっとそう思ってたのかなって。
それでも、何を言葉にして、言葉にしないか、どう伝えるか、は選べる事だと思うから。私はあなたが、そこを見誤るような人じゃないと、勝手に信頼してしまっていた。
たった一度なんだから、たった一言なんだからって思うでしょ。
でも、刺さって抜けない棘みたいに、ずっとじくじく痛いの。
忘れたくても、忘れられないの。