駅までの道、街路樹の下、ふたり黙って歩く心許なさをかき消すように、足元に色付いて褪せて落ちた葉をわざと蹴るように踏みしめるように音を立てて歩いた。
少し前を歩くあなたはもう、「すごい音」なんて無邪気に笑いかけてはくれない。
目を上げれば、薄青色の空に暖色のコントラストが鮮やかで、長く細く伸びる木の間から注ぐ陽が眩しくて、目を細めた。
あなたはもう、「綺麗だね」と立ち止まることはなくて、その間にもまた距離が開いていく。
もう、振り返って、その手を差し出してくれることもないんだね。
変わらず巡ってきた季節の中で、変わってしまった私たちは、今日ひっそりと姿を消す。何にも無かったみたいに。
移ろう季節に紛れて、別々の道を歩いて行く。
予感していた「さよなら」
大丈夫、私もともとひとりでも楽しくやれるし。
あなたと過ごす前に、戻るだけ。
部屋も、気持ちも、時間も、あなたのためだったスペースが空いて、自由が増えた。なのに、どうしてこんなに息苦しいの。
ふたりで生きることに、慣れすぎてしまったみたい。
あなたの隣は、深く息が吸えていた。
些細な煩わしさすら、ふたりで生きている意味だった。
あなたとの日々を知る前の私には、もう戻れるはずもなかった。
あなたがそんな、熱をはらんだ目で見つめてくるから、私の体温はまた、0.1℃、上がったようで。
続く微熱のように、じんわりと熱がこもったまま、逃がしきれない。
この熱は上がりきってしまえばどうなるか、予測もできない、ただわかっているのは、身を滅ぼす、ということだけ。
なのに、この微熱のもどかしさに、身体が、疼く。
どうにかしたい、どうにかしなきゃ、
どうにか、
どうにか、して、ほしい、
我に返ったときにはもう遅い。
同じ熱をはらんだ目に、あなたが気づかないはずもなく。
弧を描いたその唇から、熱を共有するまであと、1秒ー
「そのセーターかわいい。似合ってる!」
そう伝えた私に、君は少しだけ目を丸くしたあと、「ありがとう」と、はにかんだように笑った。
その笑顔もかわいいと思ったこと、今はまだ、君には言わないでおこう。
子どもの頃は、たからもの、たくさんあったなぁ。
おもちゃのゆびわ、かわいいしーる、ふりふりのどれすのおにんぎょう、あかいくつ、、どれだけ増えても、どれも大事だった。
大人になって、あの頃よりいろんなものを手に入れられるようになったのに、“ 宝物 ”という響きにふさわしいものを、私はまだ、見つけられずにいる。