予感していた「さよなら」
大丈夫、私もともとひとりでも楽しくやれるし。
あなたと過ごす前に、戻るだけ。
部屋も、気持ちも、時間も、あなたのためだったスペースが空いて、自由が増えた。なのに、どうしてこんなに息苦しいの。
ふたりで生きることに、慣れすぎてしまったみたい。
あなたの隣は、深く息が吸えていた。
些細な煩わしさすら、ふたりで生きている意味だった。
あなたとの日々を知る前の私には、もう戻れるはずもなかった。
あなたがそんな、熱をはらんだ目で見つめてくるから、私の体温はまた、0.1℃、上がったようで。
続く微熱のように、じんわりと熱がこもったまま、逃がしきれない。
この熱は上がりきってしまえばどうなるか、予測もできない、ただわかっているのは、身を滅ぼす、ということだけ。
なのに、この微熱のもどかしさに、身体が、疼く。
どうにかしたい、どうにかしなきゃ、
どうにか、
どうにか、して、ほしい、
我に返ったときにはもう遅い。
同じ熱をはらんだ目に、あなたが気づかないはずもなく。
弧を描いたその唇から、熱を共有するまであと、1秒ー
「そのセーターかわいい。似合ってる!」
そう伝えた私に、君は少しだけ目を丸くしたあと、「ありがとう」と、はにかんだように笑った。
その笑顔もかわいいと思ったこと、今はまだ、君には言わないでおこう。
子どもの頃は、たからもの、たくさんあったなぁ。
おもちゃのゆびわ、かわいいしーる、ふりふりのどれすのおにんぎょう、あかいくつ、、どれだけ増えても、どれも大事だった。
大人になって、あの頃よりいろんなものを手に入れられるようになったのに、“ 宝物 ”という響きにふさわしいものを、私はまだ、見つけられずにいる。
明かりを落とした浴室に、灯したキャンドルをそうっと持ち込む。
キャンドルホルダーに埋め込まれた色とりどりの硝子が反射して、きらきらと空間を彩る。
ちゃぷんと全身をお湯に沈めれば、温かさにこわばりがほどけていく。揺らめく柔らかな炎を見つめれば、頭の中が静かになっていく。夢のように煌めくカラフルな光は、私の心にもひとつ、まっさらな光を与えてくれた。
日常に追われる中でも、ほんの数分を惜しんで、ほんの少しの非日常すら愉しむ余裕を無くしたくはないと思う。
温かさは、柔らかさは、心地よいのだと知っている、綺麗なものを綺麗だと思える、そんな心を保っていられるように。