落ちてゆく。落ちてゆく。落ちてゆく。
心が深く、深く、深く……底の見えない闇へと……
私はニヒルな笑みを浮かべて煙草を吸う。
少し口の中で煙を転がして鼻から息を吸い肺に落とす。
数秒息を留め頭が痺れる感覚に酔いしれる。
部屋には彼がコレクションとして持っていたヴィンテージ物のワインの空き瓶が数本と、私の胃袋から出てきたその残骸。
知らぬが仏とはよく言ったものだ。
彼が他の女とキスしているシーンなんて見なければ……
紅葉狩り、といったら京都の寺社仏閣だろうと安易な考えで京都に来ていた。予備知識は何もない。だから迷子になった。とりあえず近場の神社? 寺に入り紅葉を眺める。
風が吹く。紅葉が散る。寒い。
何が楽しくて紅葉を眺めるのか、現代に生きる俺には分からない。とりあえず紅葉見たし帰るか……
俺は永遠という言葉を『えいえん』と読むのではなく『とわ』と呼ぶ方が好きだ。理由なんて単純で、感覚の話になってくるのだが、『えいえんのあい』『えいえんのしあわせ』『えいえんのいのち』と言うよりも『とわのあい』『とわのしあわせ』『とわのいのち』と言ったほうが重量が増すから……
と、いってもこの世界に永遠の二文字は存在ないのだが……
「人と妖とが共存する国が昔あった」
そう語りだしたのは作家を目指している三十手前の男だった。名前はたしか……神木優? だったか?
「その国は妖を許さないとある宗教によって滅ぼされた」
今は彼の考えたプロットの話を、とあるカフェのテラス席で聞いている。
「国を作っていた妖の女王は殺され、人であった女王の愛人は再建させるために奮闘した」
目をつむり、頭の中で想像しているが、さほど面白くない。
「が、復興する前にまた人類が押し寄せ、愛人は殺され国は滅亡した」
フワッとした作品より、もっとキャラクターの顔が思い浮かぶような作品を作ればいいのに。
「愛人は死後、黄泉の国へ行くと妖の女王が人と妖の共存する国を作り上げ、皆笑い楽しそうに暮らしていた」
どうだい? と彼は聞いてくる。
俺は煙管に煙草を刺して火をつけ感想をのべた。
つまらん、と。
よく夢に見る。
僕は国語の教師で、好きな人と結婚して、子供がいて、幸せな生活を。
家族で笑い合ったり、時には喧嘩したり……それでも仲良くて、このまま年をとって老後を迎えるんだとしみじみ思う生活。
そして夢から覚める。
教師ではなく、未だに作家を目指して独り身の生活を……
その夢を見るたびに、僕の人生における幸せのifがあったのかと時々後悔する。