紅葉狩り、といったら京都の寺社仏閣だろうと安易な考えで京都に来ていた。予備知識は何もない。だから迷子になった。とりあえず近場の神社? 寺に入り紅葉を眺める。
風が吹く。紅葉が散る。寒い。
何が楽しくて紅葉を眺めるのか、現代に生きる俺には分からない。とりあえず紅葉見たし帰るか……
俺は永遠という言葉を『えいえん』と読むのではなく『とわ』と呼ぶ方が好きだ。理由なんて単純で、感覚の話になってくるのだが、『えいえんのあい』『えいえんのしあわせ』『えいえんのいのち』と言うよりも『とわのあい』『とわのしあわせ』『とわのいのち』と言ったほうが重量が増すから……
と、いってもこの世界に永遠の二文字は存在ないのだが……
「人と妖とが共存する国が昔あった」
そう語りだしたのは作家を目指している三十手前の男だった。名前はたしか……神木優? だったか?
「その国は妖を許さないとある宗教によって滅ぼされた」
今は彼の考えたプロットの話を、とあるカフェのテラス席で聞いている。
「国を作っていた妖の女王は殺され、人であった女王の愛人は再建させるために奮闘した」
目をつむり、頭の中で想像しているが、さほど面白くない。
「が、復興する前にまた人類が押し寄せ、愛人は殺され国は滅亡した」
フワッとした作品より、もっとキャラクターの顔が思い浮かぶような作品を作ればいいのに。
「愛人は死後、黄泉の国へ行くと妖の女王が人と妖の共存する国を作り上げ、皆笑い楽しそうに暮らしていた」
どうだい? と彼は聞いてくる。
俺は煙管に煙草を刺して火をつけ感想をのべた。
つまらん、と。
よく夢に見る。
僕は国語の教師で、好きな人と結婚して、子供がいて、幸せな生活を。
家族で笑い合ったり、時には喧嘩したり……それでも仲良くて、このまま年をとって老後を迎えるんだとしみじみ思う生活。
そして夢から覚める。
教師ではなく、未だに作家を目指して独り身の生活を……
その夢を見るたびに、僕の人生における幸せのifがあったのかと時々後悔する。
涙の理由……このお題を見たときに、私はパッと物語が思い浮かんだ。それは、墓地の前で泣く男と死んでしまった女。泣くシチュエーションなんて限られてる。それに理由を付けるのであればもっと少ない。
そして、私がパッと思い付くということは他の書き手も思いついている、と考えるのがひねくれ者の私である。ひねくれ者であるが故に物語もひねくれさせねばなるまい。誰も思いつかぬような物語を──
◇◆◇
例えばこんな話はどうだろうか?
男は生活していた。朝起きてご飯を食べスーツに着替え会社に行き少し残業をして家に帰り夕飯を食べ風呂に入り寝る。
普通を体現したかのような男だ。私から見ればつまらない人生だと思うが彼はそれに満足して日々暮らしていた。安定のレール。そこを進んでいれば小さな幸せと小さな不幸しか起こらない。それを知りつつも男は存在していた。
ある日のことだ。男がクビになった。……クビでも、会社が倒産したでも理由は何でもいい。とりあえず男は無職となった。しかし男は前を向いて働いていたときの貯金とアルバイトで次の職を探す。
が、肝心の職が見つからない。アルバイト生活の期間とストレスは増えていくのに貯金と安心は少しずつ、少しずつと減っていった。
限界が近かった頃に同級生と町中でたまたま出会う。その相手には家族がいた。父となった同級生に美人とは言えないが幸せそうに笑う母。その間に父と母両方と手を繋いで歩く子供。
『幸せ』という人を死に至らしめる万力の力で男の心は簡単に折れてしまった。
そして男は最後に首を吊る用のロープを買っていた。目からは涙がこぼれる。理由は分からない。
理想と現実が違っていたから? 違う。
独身だから? 違う。
会社が倒産したから? 違う。
考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えた。
どれくらい? 分からない。目は落ちくぼみ、喉は渇き、肌はボロボロになり、痩せ衰え、それでも考え、死に一歩、また一歩と近づく。
そして、死の一歩手前で気がついた。
いつも安定のレールを用意されてきたことに。
「俺は人生を生きてなかったんだな」と。