NoName

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7/9/2022, 3:04:57 PM

ふわふわと柔らかい光が、目を刺激した。ぼんやりと瞼を上げたものの、眩しくてすぐに閉じてしまう。
起きなければ、とは思うものの、身体はまだ布団のぬくもりから抜けられない。暖かい日差しの眩しさに慣れながら、昨日見た夢の内容を思い出したりして。
「あ、起きた。おはよー」
朝の眠気でついボーッとしていれば、横にいる恋人が話しかけてくる。太陽みたいに明るい笑顔が眩しくて、愛おしい。
「おはよう。珍しいね、いつもは起こすまで寝てるのに」
「なんか、ぱちっ!て目覚めてさ」
かわいい寝顔もばっちり堪能しましたー、なんて悪戯っぽく笑う。それが少し、嬉しいような、恥ずかしいような。
「もう……。って、やばい、今何時?」
「分かんないけど、今日は休日だしもうちょっと寝てようよ」
「……前もそれでお昼まで寝ちゃったじゃん」
「良いでしょ、予定ないし。ゆっくりしようよ。ね?」
甘えるように言う癖に、ぎゅっと腕を回すのだから意地悪だと思う。ため息をついて大人しく布団に潜れば、幸せそうに微笑まれた。
休日はいつもこうだ。前までは二度寝なんてしなかったのに、恋人が出来て、一緒に暮らし始めて。どんどん日常が塗り替えられていく。
なんて言うものの、休日には予定を入れないようにしているのは惚れた弱みと言うやつだろうか。
……まぁ、君色の当たり前になるのも悪くないかな。
そんなことを考えて、もう一度目を閉じた。


(私の当たり前)

7/8/2022, 10:34:46 AM

「……もうすぐ夏祭りだね」
帰り道、街角に貼られていたポスターを見て呟いた。
一緒に行こうよ、なんて、言える勇気もなく。ただ、ぼんやりとポスターを見る事しかできない。
「そっか、もうそんな季節かぁ」
早いね、とまだ青い夕方の空を見て呟く彼。さらさらと小さな風が、街を通り過ぎていく。
「あっと言う間だよね。ほんと」
「ねー……夏は暑いから、早く秋になってくれないかなー」
そう言って、彼はポスターから目を離し、歩いていく。その後を付いていけば、いつもの様にくだらない話が始まって。
もう、窓から街の明かりと共に花火を見るのはうんざりなのに。君と一緒に、見たいのになぁ。

(街の明かり)

7/7/2022, 10:07:44 AM

「何、お願いするの?」
笹に桃色の短冊を付けながら、にこにこと聞いてくる彼女。
願い事を書くペンの先は、少し震えていた。
「お前の恋が叶いますように、って」
「えぇっ!?もう、自分のお願い事は無いのー?」
驚きつつも恥ずかしそうに笑う姿が、夜なのにやけにはっきり見えて。胸が苦しくなった。
「別に、良いの。早く付き合えば良いのに」
そう言ってそっと短冊をくくりつける。笹の葉に隠れるよう、少し、奥に。

この想いに、気付かれませんように。

(七夕)