「涙の理由」
なんで僕を置いていったの。
ずっと一緒にいるって言ったじゃんか。
約束、してくれたじゃんか。
今日も僕は、君のいない世界で目覚めたよ。
朝日を見ると辛くて、痛くて、僕を消そうとしてるみたいなんだ。
もう僕を守ってくれる人は居ないから、このまま消えていくんだろうな。
でも、怖いんだ。
この世界から誰にも知られずに消えていくのが。
おかしいよね、自分でも自分のことが分からないんだ。
こんな人間だから、君は離れていったのかな。
また会えたらさ、もう好きになんてならないから。
だから、その手で頭を撫でてほしい。
そして、笑ってほしい。
これが僕の最後のお願い。
「コーヒーが冷めないうちに」
君はいつも、苦いからってコーヒーにたくさんミルクを入れてた。
僕には分からなかったな。なんでそんなに甘いのが好きなのか。
目の前には先ほど入れたコーヒー。
いつもと違うのは、その隣にミルクがあること。
数分考えてミルクを入れる。
黒いコーヒーに円を描くように白が広がる。
手に取るとやっぱりまだ熱くて。一口飲むのを躊躇ってしまう。
口に入れると広がる甘さに顔を顰めた。
それと同時に君の顔が浮かぶから、余計顔に皺が出来る。
ああ、やっぱりミルクなんて入れるんじゃなかった。
「時計の針が重なって」
「はやく!はやく!」
「まってよぉ〜」
君は僕の手を引いて走っていく。
一体何処へ向かっているのか、僕には分からなかった。
君は振り向きもせずにただ走るから、僕は何も言えないまま君について行った。
「はぁ、はぁ、ねぇついたの?..........え」
突然手の温もりが消えたから、目的地についたのかと顔を上げると、そこには誰も居なかった。
周りは草木が生い茂っており、腐った木で作られている大きな家があった。
まるで初めから僕以外いなかったかのような静けさだった。
「.....ねぇ、■■、どこ?」
答えるものはいない。
ひゅぅ、ひゅぅ、と風の音がなっている。
僕は一気に怖くなり、縫い付けられたかのようにその場を動くことが出来なくなった。
かち、かち
「僕と一緒に」
「約束だよ、ずっと一緒だって」
いつも見る夢。
誰かわからない人と、大切な約束を交わす。
真っ赤なマルベリーの花が咲いた場所で、二人だけで笑い合っている。
「いったい誰なんだろう........」
不思議と怖さはなく、その人の声は僕を安心させてくれる。
「一緒、か........ほんとならいいのにな」
きっと、夢なんだから叶わないだろう。
僕は死ぬまで一人なんだ。誰にも知られないまま、誰にも悲しまれずにこの世界から消えていくんだろう。
それならいっそ、夢を見たまま死にたいな。
「ねぇ、僕と一緒に」
「悲しくなんかないから」
そう言っても君は泣いてるじゃないか。
「怒ってなんかないから」
そう言っても君は僕を睨むじゃないか。
理解ができない。君はなんでそんな嘘をつくの?
べつに君が悲しくっても、怒っていたとしても、僕は笑ったりしないのに。
自分の気持ちに嘘をつく方が、僕はおかしく思うよ。