「灯火を囲んで」
ゆーら、ゆーら、ゆーら、
子供たちのはずなのに低い低い声が私の耳へ入ってくる。
ああ、なんでこんなことをしているんだろう。
目を閉じると見える真っ赤な炎。
その周りを囲む可愛らしい子供たち。
でも、でも、親は何処にいるの?
なぜ、なぜ、笑っているの?
分からない、分かりたくもない。
「行かないでと、願ったのに」
もしも、あの場所に居たのが私じゃなかったら。
貴方は私を好きになっていなかったでしょう。
恋、なんてその時の状況で変えられてしまうものだから。
きっと私たちの関係もそう、些細なことで変わってしまう、脆いもの。
でも、それでも良かった。
貴方の温かい手のぬくもりを知れたから。
少し高い声で名前を呼ばれると、世界が優しく見えたから。
人間はなんて愚かな生き物なのでしょうか。
いつか終わりが来る愛に、恋に、価値を生み出してしまったのだから。
「秘密の標本」
みんなには秘密ってある?僕はあるよ。
例えば、賑やかな場所より静かな場所の方が好きなこと、パンは嫌いだけどフランスパンは好きなこととか。
「ん?これは秘密じゃないか」
まあ、そんなところ。
秘密って誰にも言えないことだから秘密なんだけど、人の秘密ってとっても知りたくなるよね。
「ねぇねぇ、私ね、」
「おい、秘密だぞ、俺」
でも人は、そんな誰にも言えないことを楽しそうに人に伝えようとする。なんでだろう。
それなら別に秘密じゃないじゃないか。ただの君自身の話だ。それを特別感を出して言うことは、少し違うんじゃないかな?
「こんなこと考えても仕方ないか」
そうだ、こんなきっと変わらない人の習慣を、今更考えたって意味は無い。
でもいつか、僕の知らない沢山のことを、知れる日が来ると今は願おう。
「moonlight」
空に輝く星のように、僕も誰かを照らせる存在になりたかった。
そんなこと無理だって分かってるけど、思わずにはいられなくて。
僕の周りの人はみんなきらきら輝いていて、どうしてそんなに明るいままでいられるんだろうって、不思議に思っていたし、嫉妬だってした。
誰かのために、何かのために頑張れる人。
なんだろうな、きっと。
僕にはそんな人いないし、目標なんてない、つまらない人間なんだ。
いっそその光で僕を消して欲しいよ。
「遠い足音」
鯨が踊っている海で、水飛沫を浴びながら立っている。
聞こえるのは人魚姫の鼻歌。
悲しいかな、水浸しになった自分の頭はもう使えない。
考えることを放棄せざるを得なくなった。
これからどうしようか。
濁った水面に浮かんだゴミのような世界で、
果たして生きる意味はあるのか。