篠@sino111AZ ←Twitterに感想いただけるとありがたいです

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10/31/2023, 11:51:42 PM

『理想郷』

人類が宇宙に到達してから約1000年が経過した。地球では環境問題解決の目処は全く立たず、生物は減少。資源争いは激化し、殺し合い、誰も希望を持たないそんな時代は50年続いた。未来への希望など無い時代なのに、子供を作るバカな人間は沢山いるもので、誰もがこんな時代に産まれたくなかったと親を憎み、神を憎み、神を信じる宗教は終わり神を憎む宗教が始まった。
人類の希望は最早地球には無い。神を憎む宗教は地球を憎む宗教へと変わり、信仰は宇宙へと移った。誰もが、資源に溢れたあるかも分からない「青い惑星」を信じ、昔信仰されていた「神」という言葉は、「青い惑星」へと置き換わった。

世界中が貧困状態になり、社会システムは破綻した。学校や医療はなくなり他者を助ける余裕があるものなどいない。自助努力という名の不寛容が広まった。学校システムが無くなった世の中でも、勉学を続けようとする人間はいる。僕等がそうだ。18世紀の植物学者、リンネが人類をHomo sapiens、英知人と定義したのは正しかったのかも知れない。

自国を統治する者がいなくなり、他国による主権、領土争いの結末として、何処ぞの国により戯れに核が落とされ国土の3分の2が汚染され、全ての国に見放された旧国、ジャポネ。約300年前、3分の1残った土地にIQの高い者10名で渡航し、誰にも干渉されずただ勉学をするという村を作り上げた。それが僕のルーツである人々だ。

この村では、食料を自分達で作る完全なる自給自足が行われている。この村の人口は徹底的に管理され、10人を保つ。年老いたものは5年をかけてその人生で得た知恵や経験の重要な部分を記録としてデータ化する。そして、新たに誕生した若い者へ移植し、その後安楽死する。さながら、ロケットペンシルのようなシステムである。

この他にも、村には徹底したシステムがある。まず、僕に母親はいない。村にいる者の優秀な遺伝子(優秀な免疫力、優秀な知力、優秀な肉体etc……)を集められて創造されたのが僕であり、この村の住人である。そして僕たちを産んだのは村で飼われる豚のP856である。だから便宜上、僕の産みの親は豚という事だ。

僕たちは産まれた時から一つの「やるべき事」を胸に抱いている。先人達による知恵、思考を受け継ぎ、一つの目的の為だけに生きる。それが僕たちである。Oneは、食料の確保、Twoは知恵の支えである記録の作成、Threeは食料の管理、Fourは文書の管理、Fiveは次の住民の誕生・安楽死システムの管理、SixはからNineは他国への渡航と資材の確保。そして僕は「青い星」の探索。僕の生きる意味だ。

僕がロケットに乗り、宇宙へ行くのもこれで2桁になる。とは言っても、僕には過去の記録と経験がある為、不安などは1回目からなかったが。
ロケットの窓から見える風景には変わり映えがない。殆どが岩クズ、燃える惑星、ガスの惑星で青は皆無だ。

現在まで受け継がれる長い長い宇宙探索の中で、僕等は太陽と酷似した惑星を8つ見つけた。
もし、本当に地球に酷似した惑星があるとするならば、太陽に酷似した惑星の周囲を公転する天体のうちに有るだろうという仮説を立て、我々の調査は主にN太陽(太陽に酷似した惑星たち)の発見とその太陽系に属する惑星の探索となっている。
N太陽系の調査は比較的楽である。N太陽系の直径は約74億キロ〜82億キロ程度である為、何処まで続くのか、終わりが何処なのかが明確だからだ。しかし、N太陽自体を見つけることは骨が折れる。宇宙を漠然とフラフラするより他に方法がないからである。
前々回の探索でやっと見つけた8つめのN太陽。頼むからこの中に青い星があって欲しいと願いながら、窓の外に目を凝らす。

唐突に、オレンジ色の閃光が視界を横切った。あれは一体なんだ?流星か?いや、違う。あれはロケットだ!僕以外にもこの宇宙を探索する者がいるとは。あのロケットは何処から来たのだろうか。地球だろうか?それとも、地球ではない他の惑星だろうか。もし、後者だとするのなら生物が地球と同じように進化して行った惑星の証明になる。それならば、もしかするとあのロケットが来た惑星が僕等の追い求めている理想郷、青い惑星かも知れない。

身体中を血液がもの凄い速さで流れる。これまでの人生の中で、一番早く心臓が跳ねている。望みとは異なる答えがある事を知りつつも、期待する気持ちを抑えることが出来なかった。

「あのロケットを追跡しなければ……」

静寂が満ちる操縦室に、自分に言い聞かせるよう呟いた声だけが響く。普段より汗ばむ手で操縦桿を握り直す。

一時保存

10/23/2023, 1:11:41 AM

秋も深まり、大分肌寒くなった。
オレンジに染まった街並み木を見ながら通勤するのは好きだが、この寒さだけはいただけない。
そろそろ衣替えをしようか。
そんな考えが脳裏に浮かぶ。

風の温度に震えながら家につく。銀のドアノブもキンと冷えて、当然ながら家の中も冷たい空気が漂う。
これは明日はもっと寒くなるだろうな。今日のうちに済ませてしまわないと。
手を洗い、うがいをし、鞄を定位置に置く。いつものルーティーンをこなした後、早速取り掛かろうとクローゼットの奥にしまい込んでいた、プラスチックの衣装ケースを取り出す。
一年も経つと、好みも変わっているもので服を今年も着るものと、もう着ないだろうなと思う物に分けていく。
分別にも目処が立って来た頃、一つのカーディガンを見つけた。

あぁ、これは去年の秋の初めにミユキから貰ったプレゼントだ。肌触りが良く、かなり気に入っていたっけな。
ミユキとは、冬の終わりに別れてしまった。僕よりも好きな人が出来たと言われ、かなりショックを受けた。
カーディガンを贈ってくれた頃にはもう、その人に惹かれていたのだろうか?などと色々考え見る度に悲しくて、悲しくて、でも捨てられなくて奥にしまい込んだ苦い思い出の詰まった代物だ。しかし、最近はもうすっかり存在を忘れていた。

今はすんなりと思える。これはもう捨てても良いな。肌触りは相変わらず良いが、毛玉がいくつか出来ている。去年はシックな装いが好きだったが、今年の春はミユキと別れたショックから、気分を上げようと明るい服を選ぶようになり、いつしかそれが僕の好みになっていた。今の僕の服には、このカーディガンの色合いは合わないだろう。それに、僕には今新しい好きな人がいる。

僕の心は、疾うに衣替えをしていた様だ。


10/21/2023, 11:05:14 AM

「声が枯れるまで」

叫んで 叫んで 叫んだ
でも誰にも僕の想いは伝わらないんだ。
こんなに叫んでいるのに
潰れているのは、喉ではない。僕の心だ。
僕の叫びは喉を震わせない
言葉が詰まって息ができない
心に想いが詰まり過ぎて、気管をも塞ぐ感覚。
僕は声が枯れるまで叫ぶことが出来ない。
ただ、心の中で叫び続けている
誰か 誰か 誰か!
人魚姫もこんな気持ちだったのだろうか。
誰にも届かない声、感情、叫び。
僕も泡になってしまえたら。そんな事をずっと考えていた。

息苦しくて、生き苦しくて。人を見るのが嫌で、逃げるように反対の電車に乗り込んで、海を見に行く事にした。
誰もいないと思っていた、秋の海。予想に反し、僕より先に、人がいた。少し歳上だろうか?
グレーの寂しそうな瞳が妙に印象的だ。目を伏せ、眉間に皺が寄った息苦しそうな表情を浮かべている。
鏡の中で、毎日のように見る僕の表情と同じだ。
これがシンパシーというものだろうか?一人になりたくて此処へ来たと言うのに、何故だかその人の存在だけは自然と許せた。
僕は聞こえるわけが無いと知りながらも、心の中で、そっとその人に声をかけた。
「すみません。貴方も何か叫びたい事があるのでしょうか?何故、此処に来たのですか?」
すると、その人は唐突に振り返り、そして、僕に無言でスマホを差し出した。
画面を覗き込むと、こう書いてあった。
「私は先天性の病気で声が出ません。」
僕は驚いた。僕は声を出していないのに、その人は僕の言葉を聞いて、振り返り、返事をしたのだ。
僕の声が届く人がいるなんて……!心が震える。

後天的に声が出なくなった僕と、先天的に声が出ないと言うその人。人間社会の波に打ち上げられた二人の出逢いは、静かだった。
波音だけが、耳に響いている。

10/21/2023, 7:52:23 AM

始まりはいつも君だった
君がカッコいいと言ったから、始めたギター。
君が好きだと言ったから、凝り始めた珈琲。
君の言葉ひとつで僕は左右された。
そんな僕を、君は嫌いだと言った。
僕の終わりも君のものだ。