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「声が枯れるまで」

叫んで 叫んで 叫んだ
でも誰にも僕の想いは伝わらないんだ。
こんなに叫んでいるのに
潰れているのは、喉ではない。僕の心だ。
僕の叫びは喉を震わせない
言葉が詰まって息ができない
心に想いが詰まり過ぎて、気管をも塞ぐ感覚。
僕は声が枯れるまで叫ぶことが出来ない。
ただ、心の中で叫び続けている
誰か 誰か 誰か!
人魚姫もこんな気持ちだったのだろうか。
誰にも届かない声、感情、叫び。
僕も泡になってしまえたら。そんな事をずっと考えていた。

息苦しくて、生き苦しくて。人を見るのが嫌で、逃げるように反対の電車に乗り込んで、海を見に行く事にした。
誰もいないと思っていた、秋の海。予想に反し、僕より先に、人がいた。少し歳上だろうか?
グレーの寂しそうな瞳が妙に印象的だ。目を伏せ、眉間に皺が寄った息苦しそうな表情を浮かべている。
鏡の中で、毎日のように見る僕の表情と同じだ。
これがシンパシーというものだろうか?一人になりたくて此処へ来たと言うのに、何故だかその人の存在だけは自然と許せた。
僕は聞こえるわけが無いと知りながらも、心の中で、そっとその人に声をかけた。
「すみません。貴方も何か叫びたい事があるのでしょうか?何故、此処に来たのですか?」
すると、その人は唐突に振り返り、そして、僕に無言でスマホを差し出した。
画面を覗き込むと、こう書いてあった。
「私は先天性の病気で声が出ません。」
僕は驚いた。僕は声を出していないのに、その人は僕の言葉を聞いて、振り返り、返事をしたのだ。
僕の声が届く人がいるなんて……!心が震える。

後天的に声が出なくなった僕と、先天的に声が出ないと言うその人。人間社会の波に打ち上げられた二人の出逢いは、静かだった。
波音だけが、耳に響いている。

10/21/2023, 11:05:14 AM