篠@sino111AZ ←Twitterに感想いただけるとありがたいです

Open App

『理想郷』

人類が宇宙に到達してから約1000年が経過した。地球では環境問題解決の目処は全く立たず、生物は減少。資源争いは激化し、殺し合い、誰も希望を持たないそんな時代は50年続いた。未来への希望など無い時代なのに、子供を作るバカな人間は沢山いるもので、誰もがこんな時代に産まれたくなかったと親を憎み、神を憎み、神を信じる宗教は終わり神を憎む宗教が始まった。
人類の希望は最早地球には無い。神を憎む宗教は地球を憎む宗教へと変わり、信仰は宇宙へと移った。誰もが、資源に溢れたあるかも分からない「青い惑星」を信じ、昔信仰されていた「神」という言葉は、「青い惑星」へと置き換わった。

世界中が貧困状態になり、社会システムは破綻した。学校や医療はなくなり他者を助ける余裕があるものなどいない。自助努力という名の不寛容が広まった。学校システムが無くなった世の中でも、勉学を続けようとする人間はいる。僕等がそうだ。18世紀の植物学者、リンネが人類をHomo sapiens、英知人と定義したのは正しかったのかも知れない。

自国を統治する者がいなくなり、他国による主権、領土争いの結末として、何処ぞの国により戯れに核が落とされ国土の3分の2が汚染され、全ての国に見放された旧国、ジャポネ。約300年前、3分の1残った土地にIQの高い者10名で渡航し、誰にも干渉されずただ勉学をするという村を作り上げた。それが僕のルーツである人々だ。

この村では、食料を自分達で作る完全なる自給自足が行われている。この村の人口は徹底的に管理され、10人を保つ。年老いたものは5年をかけてその人生で得た知恵や経験の重要な部分を記録としてデータ化する。そして、新たに誕生した若い者へ移植し、その後安楽死する。さながら、ロケットペンシルのようなシステムである。

この他にも、村には徹底したシステムがある。まず、僕に母親はいない。村にいる者の優秀な遺伝子(優秀な免疫力、優秀な知力、優秀な肉体etc……)を集められて創造されたのが僕であり、この村の住人である。そして僕たちを産んだのは村で飼われる豚のP856である。だから便宜上、僕の産みの親は豚という事だ。

僕たちは産まれた時から一つの「やるべき事」を胸に抱いている。先人達による知恵、思考を受け継ぎ、一つの目的の為だけに生きる。それが僕たちである。Oneは、食料の確保、Twoは知恵の支えである記録の作成、Threeは食料の管理、Fourは文書の管理、Fiveは次の住民の誕生・安楽死システムの管理、SixはからNineは他国への渡航と資材の確保。そして僕は「青い星」の探索。僕の生きる意味だ。

僕がロケットに乗り、宇宙へ行くのもこれで2桁になる。とは言っても、僕には過去の記録と経験がある為、不安などは1回目からなかったが。
ロケットの窓から見える風景には変わり映えがない。殆どが岩クズ、燃える惑星、ガスの惑星で青は皆無だ。

現在まで受け継がれる長い長い宇宙探索の中で、僕等は太陽と酷似した惑星を8つ見つけた。
もし、本当に地球に酷似した惑星があるとするならば、太陽に酷似した惑星の周囲を公転する天体のうちに有るだろうという仮説を立て、我々の調査は主にN太陽(太陽に酷似した惑星たち)の発見とその太陽系に属する惑星の探索となっている。
N太陽系の調査は比較的楽である。N太陽系の直径は約74億キロ〜82億キロ程度である為、何処まで続くのか、終わりが何処なのかが明確だからだ。しかし、N太陽自体を見つけることは骨が折れる。宇宙を漠然とフラフラするより他に方法がないからである。
前々回の探索でやっと見つけた8つめのN太陽。頼むからこの中に青い星があって欲しいと願いながら、窓の外に目を凝らす。

唐突に、オレンジ色の閃光が視界を横切った。あれは一体なんだ?流星か?いや、違う。あれはロケットだ!僕以外にもこの宇宙を探索する者がいるとは。あのロケットは何処から来たのだろうか。地球だろうか?それとも、地球ではない他の惑星だろうか。もし、後者だとするのなら生物が地球と同じように進化して行った惑星の証明になる。それならば、もしかするとあのロケットが来た惑星が僕等の追い求めている理想郷、青い惑星かも知れない。

身体中を血液がもの凄い速さで流れる。これまでの人生の中で、一番早く心臓が跳ねている。望みとは異なる答えがある事を知りつつも、期待する気持ちを抑えることが出来なかった。

「あのロケットを追跡しなければ……」

静寂が満ちる操縦室に、自分に言い聞かせるよう呟いた声だけが響く。普段より汗ばむ手で操縦桿を握り直す。

一時保存

10/31/2023, 11:51:42 PM