私が独り、あなたも独り。
でもこの孤独を分かち合えるなら
私たちはふたりでひとり。
刺すような視線を感じ辺りを見渡した。
深い色のビロードに覆われたような空には、ラピスラズリで飾ったかのように金色の星が点々と散りばめられていた。
「にゃあ」
高い声が降ってきた。
猫か?いやそれよりも…
声の主を探すと、近くの背の高い塀の上に鋭い目玉を二つ見つけた。
猫のように光ってはいなかった。
それはゆっくりと瞬きして、のっそりと塀の淵で立ち上がった。
人間の女の子だ…!しかしまあ随分と小さい。
闇に紛れて見えなかった少女の長い黒髪が風に巻き上げられふわりと広がった。
ただただこちらを見下ろしている二つの目玉は、目を凝らしてよく見ると黒ではない色をしていた。
深い、夜を讃えるような濃紺。
吸い込まれるように見つめてしまい身動きが取れなかった。
いつまでそうしていたのだろう。彼女が目を細めた。
少し横を向き、横目でまだこちらを見続けている。その目つきの鋭いこと。
しばらく見つめ合った後、少女は塀からぱっと飛び降り真隣に来た。
その瞬間さえ彼女は視線を合わせたままだった。
「にゃあ、と言っているだろう」
その少女から発せられた言葉とは信じられなかった。
見た目に反して、声は随分と大人だ。
唖然としていると、機嫌を損ねたのか彼女は背を向けて歩き出した。
追いかけるべきか?
立ち尽くしている間に少女を見失ってしまった。
ペパーミントのハーブティーを透き通ったガラスのシンプルなカップへ。
黄金色のその液体がトポトポと、カップと同じようなガラスのポットから注がれる。
周りに良い香りが広がり、柔らかな湯気が立つ。
ふわふわのブランケットを膝の上へ。
りんごのように赤く少し光沢がある面と、白猫の長い毛足のような面のリバーシブル仕様。
素晴らしい手触りを堪能しながら赤い面を表に向ける。
お行儀よく並べられているカラフルなぬいぐるみたちから大きめのを一匹、今日のお茶のお供へ。
両腕でぎゅっと抱きしめたら、その柔らかい頭に自分の顔を埋める。
『やることはまだいっぱい残っているのに、こんな時間ばかり妙に大切にしてしまう』
「あれがデネブ、アルタイル、ベガ」
君がまたこの歌を歌っている。
夏でもないのに空を見る。
よく知りもしないその歌を私も口ずさんでみる。
君の声と私の声は、あまり上手く重ならなかった。
夕暮れ時、窓辺で物思いにふける。
おや、誰かが迷い込んできたようだ。
無理もない、この小さくも豪奢な屋敷には
庭師の力作の迷路たちがどこからともなく始まっている。
嗚呼、暗くなってきてしまって、迷い人の顔がよく見えないな。
「そこにいるのは誰ですか?」