まるで鷹のような彼は
今も獲物を狩る前みたいに鋭い視線を送っている
何もない、空中に
目つきの悪い俺は
いつも誰かに怖がられながら過ごしていた
それでも、今日はそれを無くさなければいけない
彼女に怖がられないように
けれどそう思えば思うほどに
緊張で目はつり上がっていく
顔が、燃えるように熱い
握っていた指先が、力の込めすぎで白くなる
体中から汗が噴き出す
「ー好きです。」
小さく声が聴こえる
その言葉の意味を、私は数秒経って理解出来た
あぁ、なるほど
だからそんなに視線が鋭かったのね
何もないところへ送っていたのね
気恥ずかしかったのね
鷹のような彼が、凄く、可愛く見えた
緩やかな坂の上にある、住宅街
その一角にある家には
いつも、彼がいた
彼は当時の年齢、小学生にしては凄く
大人びている人だった
それでも私たちと一緒にバカなイタズラをして
大人に怒られる、子どもらしい一面を持っていた
そんな彼のことを、私は好きだった
ずっと、友達で居たかった
けれども、時間の流れは残酷で
彼とお別れすることになった
「クローン病」というものになってしまったらしい
小腸や大腸内の粘膜が爛れる病気だ
難病指定もされている
故に彼は、病気に入院することになったらしい
そしてなかなか、戻ってこれないと
それを聞いた私は泣きじゃくった
身体の水分が枯れてしまうんじゃないか。と思うくらい
それはもう泣きじゃくった
今となっては、後悔している
彼を、慰めなかったことに
いくら大人びた彼であっても辛かったはずだ
泣きたかった筈だ
赤い屋根の上に、シャボン玉がのぼった
高く、高く、空へのぼった
そうして、壊れて消えた
昔、急に甘えたくなって
一番背の高い君に抱きついた
そうしたら、
「しょうがないなぁ」
なんて言って、君は受け入れてくれたね
それが嬉しくて、事あるごとに君に抱きついて
一緒にいたのは
もう、黒歴史に近い大切な思い出だよ
ずっと一緒にいて、ゆっくりゆっくり好きになった
そして突然、自覚した
もう、子どもみたいには、甘えられないなぁ
君が好きと、知ってしまったから
いつも、ひとりで帰ってしまうあなた
それを少し離れたところから見守る私
どうしよう、変質者みたいだわ
学校帰り、部活に入っていないあなたは
まっすぐ家に、帰宅する
そうして私は、それを影から見届ける
最近、こんなルーティンが出来た
おかしいわね
本当におかしい
ただ、
「一緒に帰りませんか?」
なんて伝えたかっただけなのに
今では、プチ・ストーカーにまでなっている
何がどうしてこうなった
パニックを起こしながらも追いかけ続ける私は、
あの人が口元に小さく笑みを浮かべていたのに
気づいていなかった
風が吹き、窓を覆うカーテンが
ふわり、と浮き上がった
そして、あなたがキスをしているのが見えた
私じゃない別の子に
そうじゃないかと、思ってた
だってあなた
授業が終わったらすぐに保健室へ向かうもの
それは隣のクラスの佐藤さんも同じらしくて、
ふたりが寄り添い合いながら
保健室を出ていくのを見た人がいるんだって
バカね
ほんっとうにバカ
浮気するなら、もうちょっとうまく隠せっての
…そうしたら私も、傷つかずに済んだのに
私たちは、そのままで入れたのに
ふぅ
溜息をつく
幸せが逃げて行っても別に良い
もう十分、不幸せだから
よし、甘いものを食べて、忘れましょう
あんなバカなやつ、こっちから願い下げ
甘いものをいっぱい、いっぱい食べて、
幸せになりましょう
溜息をつけないくらい、幸せに