モンブラコン*
~~~~~~~~~~~~~『何もいらない』
「…ネイさんの中が…テイちゃんで…一杯だよ
…もぅ…テイちゃん以外…何もいらないっ…」
「…何で寝言は標準言語なんだよ」
まだ日が昇ってない、早い時間に目が覚めた
オレ、モンスター姉弟、末っ子です。
姉さんの年齢制限必須寝言に起こされた訳じゃなく、悪夢をみて、うなされて起きたのだが、内容が思い出せない…。まぁ良いか…。
下の階から、テイちゃん(兄)が朝御飯の支度をしてる音が聴こえてきた。
その音を辿って、階段を下りる。
余程嫌な夢だったのかな…気分が沈んでる。
その沈んだ姿勢から、すがる様に、テイちゃんの腰に抱き付いて、背中に顔をうずめる。
テイちゃんは何も言わない、のではなく、発声能力を失っている為、喋れない。その代わり、
いや、その分、莫大な優しさを行動で表す人だ。
両手は料理、長い尻尾でオレの背中を擦ったり、ポンポンしたりしてくれた…。
調理の音と、何も言わなくても察してくれる
テイちゃんが醸し出す安心感の、空気が流れる。
窓の外が明るくなってきた。
調理が一段落したのか、テイちゃんが左手をオレの肩に添えて、ロボット風にゆっくり振り返り、ほんのり温かいタオルでオレの顔を拭いてくれた…。テイちゃんの中でオレは子供のまんまなんだね…、子供だけど。
ぬるま湯が入ったコップを手渡され、うがいを促されるオレ。
「うがいしたら…チューしてくれる?」
ロクでもないことを言うオレ。自分で言っておきながら恥ずかしくなって反応を確認出来ない。
うがいをして、口を拭こうとタオルを探す前に、テイちゃんが再び拭いてくれた、けど、ん?待って、左手が頬と耳を包む様に…、テイちゃんの顔が近い様な…、え♡、え、こゆ時って口少し開けた方が良いですか!?誰か教えてぇ…。
モサっとした感触、これは…姉さんの尻尾。
「を…をまぃら、朝っぺらがら…、ぬぃさんば…ぬけもんぬすで…なぬすてるがぁっっ」
テイちゃんが、甘いお菓子で姉さんの機嫌を直そうとしている…。
姉さんは叫んだ、
「なぬもいらねぇ!!!」
モンブラコン*
幼少~~~~~~~~~~~『届かぬ想い』
息子は何度も、私を呼んでいたのに、
私は、一度も、まともに応えてやれなかった。
仕事から帰ったら7番目の彼氏が、動かない
2歳の息子を気にもとめず、猫を捜してた。
空腹の息子が猫のご飯を食べたから、だから、
私の息子はこうなったのだ、と言う。
隠すのに良い場所がある、と私は提案した。
近くに観光名所もなく、道はあるけど、人が
入らない山奥……息子を5度、棄てた場所。
私は息子より男を選んだ。その度に棄てた。
そしたら今度は男が私を捨てた。
息子を想い出す、なぜか息子が返ってくる。
心が不安定な私は、そんな不思議なことを、
疑問視することもなく、繰り返していた。
──5度目に棄てた時だった、寝ている息子を
大木の根元に置き、帰ろうとした……、ふと、
振り返ったら、3メートル位の熊?がいた。
顔は犬に似ていて、尻尾がやたら長い、
妙に怖くなかった。罰を受けるのが当然と思っていたからなのかもしれない。
熊?は、優しい人間の様な手つきで、息子を
抱えた。そうか、私が棄てていた息子は、
この熊?に生かされていたのか…。
その時、息子が目を覚ました。
寝起きはぐずる、「マー」と息子が私を呼ぶ。
熊?は長い腕を伸ばし、手の中の息子を、
私の前に差し出した。思わず息子を抱きしめて、
顔を上げたら、熊?は消えていた…。
思えばあの熊?は何度もチャンスをくれていたのだ、私がまともな人間でいられるチャンスを。
それを、全部無駄にしたのだ。
息子を埋めて、
彼氏の運転する車の助手席に座ってる、
私が。
瞬間、記憶が飛んだ。
私は車の窓から飛び出そうとしたはず、なのだが、なぜか無傷で道路に座ってて、目の前には
車に“噛みつかれている”彼氏が呻いている。
車を上から、そんな変形を、させているのは、
あの熊?ではなかった。形は似ているけど、熊?より小さくて、白くて細い、大きな狐みたいだ。
「あのぼぅずはもらうど」
狐?が喋った。
「おみゃぁ、よぐやってくりたな」
狐?に責められるか、仕方ないよね…。
「おみゃぁが、あの場所に、あしゃく埋めで、
くりたおかげで、ぼぅずをギるギる助けられだ」
何?何か私のおかげって??
「意味が分からない…ですけど」
「む、しょれよぐ言わりる…まぁ、おみゃぁは
いつも、ぼぅずを生かして置いてでくりたば?
そこが、ありがてぇて、言うでるんよ」
「ありがたい…て」
私は息子の求める私には、なれなかった、
だから私は感謝されるような人間では…。
「をぃ、ぼぅずもらうかんな、えぇなっ」
狐?は遠くの山にひとっ飛びで消えてった。
息子は助かったんだ…多分。でも、何か
のみ込みきれない気持ちがあって、歩いていた。
山の方から小さな人影が近付いて来た。
それは息子だった。
が、獣耳と犬の尻尾が生えていた。
そして2歳児とは思えない覇気のある顔と、
聴いたことのない元気な声で話しかけてきた。
「ママっキャラメル持ってたよね?ちょーだい」
ポケットにいつも入れてる、溶けかけのキャラメルを手渡すと、息子は山の方に体を向け、
「ありがとママっまたねっ」
手を振りながら、走って行ってしまった。
……ますますのみ込めない。
もう、笑うしかなかった。
モンブラコン*
~~~~~~~~~~~~~『神様へ』
「をおぉおぉほぉぉ〰️♡」
テイちゃん(兄)が持ってきた段ボール箱を、
姉が大はしゃぎでバリバリ解体している。
「姉さん、また通販?一回頼むとパンフレット
延々と届くんだから程々に…」
「こりはなっ、へでんのれんぬぅにゃのだ!」
…これは秘伝の練乳なのだ、と言っています。
よくそれで注文出来たな、オペレーター神だ。
早速一本、チューブを取り出し、哺乳類の様に
咥え、5秒で飲みきった姉は驚きと感動の表情で固まり、空のチューブを床に落とし(テイちゃんがキャッチ)、居間の黒電話へと走り出した。
「何!?何!?どしたの?」
「このくもつば、ちゅくた人間にちゅたえねば!
ほんてぃにこだわるぬぇで、ちゅくたんばねて」
どうやら作った人にお礼を伝えたいらしい。
テイちゃんが電話番号の書かれたパンフを
持ってきてしゃがみ、黒電話の番号を長い指で
回す、その間姉さんは両手で受話器を持ちながら、待ちきれない様子で身体を小刻みに揺らしている。何か心配(電話の向こうが)なので、
オレも寄り添うことにした。
「もすもす、かむ様じぇすか?」
…姉さんは練乳業者を神格化した模様。
「かむ様!あるがどう!、最高じゃたび、
ぬぁめらがなぬぉどごすに、パンツなる甘味…」
奇跡が起きて話が通じている…。
やっぱり、オペレーターに神がいる…。
大丈夫だな、と安心した笑顔のテイちゃんは、
散らかった段ボールを片付け始めた。
自分が作ったものに、ここまで感激して
もらえたら、嬉しいだろうな…。
お客様は神様ですって思っちゃうかも…。
……チリン♪︎受話器を置く音がした後、
姉はテイちゃんの背中に飛び付いた。
「テイちゃん、このれんぬぅをテイちゃんに、
ぬりぬりしてっペロペロしちゃげるね♡」
「お客様、その使用方法はやめて下さい。」
モンブラコン*
番外{前世}編~~~~~~~『遠くの空へ』
カマレが拾ってきた、あの娘を、
僕は遠くの空へ、ぶん投げた。
雁字搦めのカマレはずっと暴れている。
目を覚ましてくれ。
あの娘は、お前が護らなくても生きられる。
あの娘は、明らかに内部崩壊を意図して
造られてる。お前が守るべきは、この村だ。
「ガブ美を傷付ける奴は許さねぃび…」
傷付かねぇよ再生するんだから。
「ガブ美が泣いてるかもすれん…」
泣かねぇよ心がねんだから。
てか、何その名前。
うるさいので口も塞ぐ。
どうしちゃったんだよ僕のカマレ……。
結局、僕が根負けして、あの娘は戻って来た。
モンブラコン*
~~~~~~~~~~~~~『星空の下で』
オレ達、怪物姉弟が守る村は、
湖と山に囲まれた、超絶景田舎村です。
もちろん、夜空は満天の星空…姉さんが奏でる金平糖咀嚼音をBGMに、屋根の上に布団敷いて、三人川の字まったりと過ごしております。
『白湯飲もう、お腹温まるよ』
テイちゃん(兄)が2つ重ねの紙コップにお湯を
いれて持ってきてくれた。細かく切った柚子の皮がほんのり香り、小さな星空が映る最高の一杯☆
ゆっくり口に運ぼうとしたら、テイちゃんの大きな両手が、オレの手を包み止めた。
小さな星空を覗いてフーフーするテイちゃん。
待ってぇ~ちょと待ってぇ♡顔は近いし♡
手は重なってるしぃ♡天の川どころじゃなぃぃ。
バリボリ!バリ!ボリボリ!
金平糖の雄叫びが聴こえたので、息を調え、
星空を飲む………星空は、幸せの味だ☆