モンブラコン*
幼少~~~~~~~~~~~『届かぬ想い』
息子は何度も、私を呼んでいたのに、
私は、一度も、まともに応えてやれなかった。
仕事から帰ったら7番目の彼氏が、動かない
2歳の息子を気にもとめず、猫を捜してた。
空腹の息子が猫のご飯を食べたから、だから、
私の息子はこうなったのだ、と言う。
隠すのに良い場所がある、と私は提案した。
近くに観光名所もなく、道はあるけど、人が
入らない山奥……息子を5度、棄てた場所。
私は息子より男を選んだ。その度に棄てた。
そしたら今度は男が私を捨てた。
息子を想い出す、なぜか息子が返ってくる。
心が不安定な私は、そんな不思議なことを、
疑問視することもなく、繰り返していた。
──5度目に棄てた時だった、寝ている息子を
大木の根元に置き、帰ろうとした……、ふと、
振り返ったら、3メートル位の熊?がいた。
顔は犬に似ていて、尻尾がやたら長い、
妙に怖くなかった。罰を受けるのが当然と思っていたからなのかもしれない。
熊?は、優しい人間の様な手つきで、息子を
抱えた。そうか、私が棄てていた息子は、
この熊?に生かされていたのか…。
その時、息子が目を覚ました。
寝起きはぐずる、「マー」と息子が私を呼ぶ。
熊?は長い腕を伸ばし、手の中の息子を、
私の前に差し出した。思わず息子を抱きしめて、
顔を上げたら、熊?は消えていた…。
思えばあの熊?は何度もチャンスをくれていたのだ、私がまともな人間でいられるチャンスを。
それを、全部無駄にしたのだ。
息子を埋めて、
彼氏の運転する車の助手席に座ってる、
私が。
瞬間、記憶が飛んだ。
私は車の窓から飛び出そうとしたはず、なのだが、なぜか無傷で道路に座ってて、目の前には
車に“噛みつかれている”彼氏が呻いている。
車を上から、そんな変形を、させているのは、
あの熊?ではなかった。形は似ているけど、熊?より小さくて、白くて細い、大きな狐みたいだ。
「あのぼぅずはもらうど」
狐?が喋った。
「おみゃぁ、よぐやってくりたな」
狐?に責められるか、仕方ないよね…。
「おみゃぁが、あの場所に、あしゃく埋めで、
くりたおかげで、ぼぅずをギるギる助けられだ」
何?何か私のおかげって??
「意味が分からない…ですけど」
「む、しょれよぐ言わりる…まぁ、おみゃぁは
いつも、ぼぅずを生かして置いてでくりたば?
そこが、ありがてぇて、言うでるんよ」
「ありがたい…て」
私は息子の求める私には、なれなかった、
だから私は感謝されるような人間では…。
「をぃ、ぼぅずもらうかんな、えぇなっ」
狐?は遠くの山にひとっ飛びで消えてった。
息子は助かったんだ…多分。でも、何か
のみ込みきれない気持ちがあって、歩いていた。
山の方から小さな人影が近付いて来た。
それは息子だった。
が、獣耳と犬の尻尾が生えていた。
そして2歳児とは思えない覇気のある顔と、
聴いたことのない元気な声で話しかけてきた。
「ママっキャラメル持ってたよね?ちょーだい」
ポケットにいつも入れてる、溶けかけのキャラメルを手渡すと、息子は山の方に体を向け、
「ありがとママっまたねっ」
手を振りながら、走って行ってしまった。
……ますますのみ込めない。
もう、笑うしかなかった。
4/16/2023, 3:01:25 AM