村人ABCが世界を救うまで

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3/23/2026, 6:55:02 AM

入ったばかりの後輩に名前を教える時がついにきた。
私もついに腹をくくるときが来たか…。
名簿を見せても、私の名前読めなさそうなんだもの。

「リンクよ」
「リンク」
「そう。りんねの輪と、くちべにの紅で、輪紅」
「輪紅…」
「ゲームキャラみたいな名前でしょ」

ほんと、漢字を説明するのも何十回目なんだろう。嫌になる。
りんく…と、もう一度口にだして、後輩は笑わなかった。正確には感激したような顔だ。

「いいじゃん!呼びやすい!」

全然嬉しくない。「まな」とか「ゆあ」とか「さや」とかいっぱいいる中で「リンク」よ??
「遠くから呼びたいですね…。リンクー!って」
「スケートリンクみたいでいや」
「贅沢ですね。可愛いのに。呼びやすくですっごく好きなんだけどな」

子犬みたいな顔で後輩は言った。
ちょっと、なんなのよ。不意打ちもいいところ。
顔から火が吹き出すかと思ったわ!
あんたこそなにその可愛い顔は!

バカみたい

3/21/2026, 10:54:56 PM

あんなにたくさんいた仲間達は、みんな居なくなってしまった。夢だったような、長かったような旅だった。不思議。3年半か4年…。
旅の終わりに2人残されるはめになるなんて思わなかったけど…。
ベッドがぎしっと鳴いて、大きな影が私を包んだ。
「つらくない?」
幼馴染の彼がそっと頭を撫でてくれる。
「平気」
苦しそうな顔をしているのはあなたなのに。

太くなった腕が身体を巻き寄せてくれる。だから私も彼の身体に腕を回す。温かくて滑らかでとても気持ちがいい優しい温度だ。
「ありがと」
「なにが」
「えっと…」
いつももじもじしている彼がさらに口ごもっている。照れてるのか。何か素敵なこと言ってくれないかな。という思いとは裏腹に、出てきた言葉はぎこちない。
「ぼく初めてで…その」
「私だって初めてですけども」
「う、ん。その」
毎日の肉体労働でたくましくなった身体がぎゅうぎゅう抱きしめてくる。なんでだいじな言葉はなかなか言ってくれないんだろ。苦しいぞ。
「すごく、嬉しかった。途中無理させちゃったごめん」
「いいよ…」
大きな獣みたいな彼の頭まで手を伸ばして撫でる。確かに下腹部はヒリヒリ痛くて腰がズレたみたいにぎこちない気がする。
薄い衣服のままの私たち。彼の目が胸元に集まっていた。
ふわっと大きな手で寄せられて、こっちも昨晩を思い出して声が出てしまう。
「あ…」
あ、ご、ごめん!と、はっとなって離すけど、多分無意識なんだろうな…男って理性が一瞬消えるんだ…。
「嬉しくて。受け入れてくれて、嬉しかった。すごく幸せだった」
「うん。私も」
頬が触れ合う。部屋はまだ温かい。
落ちた暖炉の火がまだのこっている。外は雪。
ここまで来るのに本当に長かった。
温かい肌にまたぎゅぅと抱きしめられると心が落ち着いて、足りない部分をすべて埋めてもらえるような居心地の良さだった。
おしりの辺りでなにかがもぞと動いて驚いていると、彼のものだった。
「またしよ」
「はい…」
照れてる。なんで敬語なのよ、私まで照れちゃうじゃない。
私の肩に唇が触れた。欲しかった言葉だった。
「大好き」
「うん。私も…」
そして背を支えられキスをする。
まるで世界に二人きりのような静寂だった。

ふたりぼっち

3/20/2026, 12:50:05 PM

小さな光の玉がふわふわと落ちてくる。舞雪のようで、それぞれに魂が宿っているらしい。ここは多くの息吹が集う楽園だった。

世界の終わりのようで始まりのような光景。
周りは淡い黄色の花がささやかに揺れ、中央の湖から立ちのぼる霧が幻想的に光を遮断する。
今が昼なのか夜なのか。それさえも分からない。
「娘よ。何を泣く」
腹に響く低音が優しく耳元で囁いた。
「…父さま…」
細い角を持つ獣だった。毛皮は長く上質で自ら発光しているかのよう。
「どうした娘よ」
「お願いです父様、どうかお側において下さい」
娘は静かに身体を預けた。孤独を抱え1人で戦い続けるのは酷く消耗する。
「お前が望むのなら叶わぬことはない。我々はいつでもここにいる」
美しい白銀色の毛がふわりと身体を包む。夢心地のような温かさだった。
「本当ですか」
「お前が望むべくもない」
娘の涙はまた落ちてまぶたが力なく震えた。やがて抗えぬ力で閉じていく。


月明かりもない新月に、黄色の花はまだ夜道を照らし続けていた。

「西の空に崩壊の兆しがある。娘よ。お前が気付かぬ訳ではあるまいね」
毛皮に埋もれるようにして眠りだした人型の娘に、獣の神はそっと語りかけた。まるで精神の奥底に植え付けるように。
「お前は私の成れ果て。ここを離れても足枷のように魂を縛るだろう」
やがてそれは知らず脳に腐食し、絶えず拠り所に枯渇し苦しむだろう。霧の中、彼女は子供のように眠り続けた。


やがて娘は戦鬼のように血なまぐさい生き方しかできなるだろう。だがそれがなんなのだろう。望む通りに。道理などない。娘はただこの世界と並行世界の連結の役目があればよいのだ。


夢が醒める前に

3/19/2026, 11:24:32 AM

彼女はいつの間にこんなに小さくなったんだろう。
子供の頃は手を繋いであちこち引っ張り回してくれていたのに、今は子供のように肩も腕も小さくて柔らかい。
豊かな髪に隠れたうなじから、優しい洗いたてのリネンの香りが頭の奥まで刺さる。

彼女の腕が絡んできて、そのまま体勢が崩れてしまった。
「離れて」
自分は必死に抗う。
ベッドの上でこれはまずい。彼女と自分の体重を支えるので精いっぱい。まずはなんで彼女が抱き付いてきたのかが分からない。
おかしくなりそうな香りで背筋がぞわぞわする。
「もっと、あなたに触りたいんだもん…」
彼女の返答にふが、と変な息が漏れてしまった。
ますますのしかかってくる彼女の身体の丸っこいこと。雨で冷えた身体にじんわりと染みる。
「最近避けてるでしょ、私のこと」
「避けてない…」
「うそ」
彼女がぎゅうと抱きしめてきた。頬が触れてすごくいい匂いがする。
理性が飛びそうだった。毎日どれだけ彼女に対して抑え込んでるか知らないのだろうか。腹が立つ。
「自分でもよく分からないんだけど…。私じゃだめかな、私じゃ頼りないかな。あなたの側にいたいのよ」
俯いて、ぼそぼそと耳に届く甘い声。
細い腰が当たる。一気に頭に血が登った。

少し前に仲間が言っていた事を思い出す。「あの子は待ってるのよ」とか「不安なんだろうな、なんで安心させてやらないんだ」とか、当時は本当に本当に意味が分からなかったんだ。
今になって一気に燻って、支配欲のようなものがもたげてくる。自分以外に取られてしまいそうだからとか、そんなんじゃない。単なる野性的ななにか。失いたくない。岩場に踏み荒らされそうな花が咲いている。それを毟り取るのは自分ではいけないはずなんだ。

「君は、そんな勘違いししそうなこと、誰にも、特に男には言ったらダメ…だと思う」
「あなたにしか言わないよ、なんでそんな話になるの」
「ダメだよ…ぼく最近おかしいんだ、頼むから離れて!!」
こんなに警告したのに、どうして泣きそうな顔で見上げてくるんだ。息が上がってくる。君のことをめちゃくちゃにしそうで怖い。
「わたしは、離れない」
「なんで…なんで…」
「好きだからよ!なんで分からないの」
強情な唇が、嘘みたいに可愛い。自分の息で彼女の前髪がふわりと浮く。
「知らない、からな…」
急に余裕がなくなって自分じゃないような言葉が出てくる。
身体は冷え切っているのに、不思議な熱が頭の芯を奪っていった。もう熱くて身体中の息が上がっていく。
気が急いて、いいよと言った優しい頬に口づけた。涙の味が少しして、僕らは初めてのキスをする。

息が甘くて、腹がゾクゾクするほど堪らなくてもう一度唇を塞いだ。なんて薬なんだろう。頭がおかしくなりそうだ。

「胸が高鳴る」

3/19/2026, 12:51:30 AM

人間の連合軍と義理の父親をバックに持つヴィルと、王国側の嫡男をどうしても英雄に仕立て上げたいという大臣の息のかかった次男坊の捨て駒とされたらカノン。
もし2人が人間でなかったとあらかじめ知られていて得をするのはと考えると…答えは人間側なのだ。

「そんなのおかしいでしょうが!!ヴィルもカノンも、なんで疑問に思わないの!」

魔界と連絡手段を持てるシーナが水鏡を持ってきた途端に飛び出てきたのは、かんかんになって怒るミレーヌだった。 

「だいたいね、もう10年だよ!?」
「15年な」
隣で変なこだわりを持って突っ込むのはカノンに付いてきた黒髪の剣士ギールスだ。

彼女はそれには突っかからずに、小さな弟に向けるように人差し指を空に立ててぷんすか怒ってみせる。
「おかしいと思わないの!あなた達が争う理由なんかないの。まおーぐんだか魔界の大王だか知らないけどその議会に私も連れてってよ、子供を巻き込むなって!」

なんだか彼女はやたらオーバーヒートしている。幼馴染の男2人は知らず一緒にげっそりとする。彼女怒り出すとしつこいのだ。カノンもヴィルも嫌というほど知っている…。

やがて水鏡の向こうでティーエやシーナの静止するような声がする。

うそだろ…!!と思っているうちに、まるで扉を割るようにミレーヌが鏡を破ってこちらの世界に飛び出してきた。


不条理

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