明け方のほの明るい世界で、薄衣を纏い眠る娘。
肩まで毛布を掛けると鼻にかかった子供のような声がした。
「おはよ…」
「うん」
寝てないのかとか問われる。寝れるわけがない。こんな半裸の彼女の隣にいて眠りこけられる男がいるものか。
「何もしてこなかったね」
「してほしかったのか」
返事はない。薄蒼い髪が垂れ下がってくる。寝起きの乾燥した唇が触れてくる。遠くで鳥の声がした。
「はなればなれ」 はなればなれになる朝
朝、アパートの隣に住む友人に呼び止められた。
「なぁ。猫でも拾ってきたか?」
「はっ?」
オレは間抜けな顔をしていたと思う。猫…拾ってないけど。オレが口を挟む前に、友人は肩をがしっと掴んできた。
「みょーに甲高い声で夜中ににゃーにゃー聞こえてきてうるさかった。内緒にしとくからバレないようにな。メスは気が荒いからな。メスは」
そしてばちんとウィンク。
「ね、猫…」
自宅に帰ると、その猫と思われてしまったものが丸まってくつろいでいた。
「私を放置してどこへいく!」
すっぽんぽんの女の子が降ってきた。思わず逃げ出したけど、細い腕が腹に絡みついてくる。
背中にふにっと当たるの…もしかしてもアレですか?
「な、な、なに?!」
「あんた、あったかいね。下界がもうこんなに寒いなんて思わなかったぁ」
慌てるオレの声なんて届いてないみたいだ。そのままぎゅーっと引っ付いてくる。
「服着たらいいんじゃないかな…」
「服ない」
服が無いって…どういう状況なの…。
とりあえずオレのTシャツ着てもらったけど…
「ほら下着がないとスースーして。上のもん、持ってきたらいけないルールなんだよねー」
オレのベッドに座って服をぺろんとめくって白いお腹を見せてくる。ほらじゃない!お腹しまいなさい!もっと大事なとこ見えちゃうよ!
と、言いたいけど言えない。
どう見ても人間じゃないんだよ。
漫画で出てくる悪魔かインプか…
金髪幼児体型なのにTシャツから存在感ばりばりにあるバスト。背中から生えたコウモリみたいな羽。オマケに尻尾。どう見てもの人間じゃないじゃん…。
昨日、ちょっとしたことで彼女と喧嘩をした。
目覚めると背を向けて眠る彼女がいる。手を伸ばそうとして何度も何度も思いとどまった。
「…一緒に暮らす?」
言ってすぐ気恥ずかしくなった頃だった。
「うん…」
彼女は起きていた。黒髪がさらさらと落ちて振り向いたと思ったら、がばっと抱きつかれる。
「お、お、起き…」
「起きてました!」
毎朝君が居てくれる。手分けして家のことをして、仕事から帰ったら一緒に食事をとりたい。
柔らかい身体がぎゅーっと絡みついてくる。
一緒に暮らしてみよう。まずはそこから。
いっぱい喧嘩したらいいんだと先人たちも言っていたではないか。
彼は意外にも大胆だった。
文化祭の演劇の合間に、私達は暗幕に隠れてキスをする。
物陰に隠れる為に腰をぐっと寄せられて大人みたいなキス。
「ダメだってば」
「誰も見てないよ」
小さな声でダメと言いながら、真っ黒いマントに包まれているみたいでドキドキした。
世界からふたりだけ切り離されている。今度は私からキスをした。
幕開けのブザーが鳴るけど、きっと誰も見ていない。