やなまか

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10/26/2023, 5:35:34 PM

大きな肩にしがみついて、息を細かく吐いていく。内側から熱く一気に破壊されていく。
「もうやめよう苦しいだろ」
気遣う声がさっきよりも切羽詰まってて、私は彼の首を抱き締めた。
「いやです」
怖がりだけど自分で決めたんです。
身体と身体が溶け合って滑らかに落ちていく。こんな優しさを知らなかった。汗で背が冷えて支える腕が熱くて。なんて混乱だろう。
「お前を壊しそうで怖い」
「大丈夫です。壊れませんから」
私達はやっと目線を交わすと、初めてのようなぎこちないキスをした。貴方が怖がるなんて珍しい。
思えば触るのさえ躊躇されてもどかしくて、ずっとやきもきさせられた。私は彼を抱き締める。受け入れたい、怖くないのだと伝えたい。

10/25/2023, 10:47:40 AM


大学の校内の廊下。
彼から随分と熱っぽい目線で見られているなと気付いた。前はずっと喋っている仲だったのに。最近、顔が合わせづらい。

私は急に照れくさくなって急ぎ足になっていた。
だけど、彼とは足の長さが違う。
わざとらしくないようにちょっと息を荒くしながら逃げたけど、彼にはすぐに追いつかれてしまった。
「なぁ。最近オレのこと避けてないか」
低い声が私を縛る。そのまま壁に追い詰められてしまった。
「避けて、ません…」
そう言うだけで精一杯。
「なんか悪い事したなら教えてくれ。顔も合わせたくないぐらい嫌ならもう…」
「嫌なんかじゃありません! だ、大事な友達です!」
その時の彼の顔をなんと表現しよう。
背が高くて頼りがいがあって。明るくて皆を引っ張る、いつでも眩しいぐらいかっこいい人が…おもちゃを奪われた子供のような傷ついた顔をしたのだ。

「そうかい。友達か。特別に思ってたのはオレだけか…」
「えっ…」
傷ついた子供の顔が急に色気を増してきて困ってしまった。
どういうこと。特別って部分で、胸が潰れるぐらい切なくなった。
「私だって、特別…です」
もう感情が溢れてどうすることもできない。顔が見れないよ。心臓の音がうるさい。



10/24/2023, 11:35:11 AM

アンドロイドと占い師

人は占い師に道筋を求め、行き先を尋ねる。
うつ向いて占いにやってきた客は、出ていく時にはほっとしたような…負担が和らいだ表情をしている。
人間はなぜ占いにすがるのか。機械である自分には、根本的な所が分からない。

「そうですね…」
彼女は嫌な顔一つせず、言葉を選びながら答えてくれた。
「なぜ自分は生きているのか。どうやって生きていけばいいか。要約するとだいたいこんな感じになりますね」
「重いな…」
「重いですね」
ぞっとして感想を述べると、彼女は拍子抜けするぐらい柔かな笑みを浮かべていた。
んなもん、自分で決めろよと思うのだが。

「宗教であったり、国であったり…生きるのに精一杯な時もあれば、悲しみや空しさに潰される時も多い。人は、すがるものが欲しいんです」
「人間は大変だな。オレにはわからん」
「そうですね。だから何のために生まれて、何のために生きるのかはっきりとしている貴方は、たまにちょっと…羨ましいですね」
「オレがか」
「はい」
「めでたいなそりゃ」
「そうかもしれません」
不思議な不思議な感覚だった。
いつか追い付くから。どうか置いていかないでそばにいて。祈ったのはどちらだったのだろう。
穏やかな午後がもう少し続きますように。

10/23/2023, 12:13:26 PM

二人して大草原の真ん中にいた。ポップは手を空に伸ばしてみる。
「でっけえな。世界は」
ポップの真似をして、隣に居るダイも片手を空に透かしてみる。2人が再会してから1ヶ月経っていた。
手ひらの向こうには、抜けるような青空がつづいていた。
「大事なもの一つ探すにゃ広すぎるぜ」
「でも空は繋がってるよ。いつかは見つかるって思ったろ。ポップなら」
「へへっ。詩人だな」
自暴自棄を起こした日もあった。無理がたたり空から落ちたことも。仲間にひどく当たった日もあった。飲めない酒に頼った日だってあった。
そろそろ別れの時間だ。
(そんな綺麗なもんじゃねぇよ)
見苦しい姿を見られなくて良かった。いや、ダイになら、のたうち回る自分を見られても平気だったかもしれない。

やがてダイが音もなく立ち上がり指笛を吹いた。
1人乗り用の飛竜が旋回しながら降りてくる。キィと鳴く立派な顎を撫で、手綱の様子をたしかめている。
「おれの勇者は世界をひとっ飛びだ。かっこいいねぇ」
「ポップもだろ」
なんだそれ。意味わかんねぇな。
「またな」「おう」
おれ達は拳をぶつけ合う。
次の瞬間おれの勇者は竜の背の人になっていた。

10/23/2023, 12:31:40 AM

黒髪の少女が部屋の奥からやってきた。
「どうですか」
真っ赤なローブを着て、ひらりと回って見せる。
黒髪が踊り、深紅の滑らかな生地と相性がいい。不思議と見ていて収まりが良かった。
ここで「かわいい」とか「似合ってる」とかほんの一言でいいから気の効いた言葉を言えたら良かったのに。
「始めてみた服だ」
なんて言ったから。
彼女の顔がむっと不満げに膨れた。
「前にも見せました!」
「えっ。そうだっけか」
そんなのいちいち覚えておけないぞ。
「そうです!これを着たら前、秋らしくていいな、って言ってくださいました」
ああ。思い出した。この服。ファーが一部ついてて、中は起毛になってるから。抱き締めると細身の彼女がふわっとしてめちゃくちゃ気持ちいいんだった。
(感覚で覚えてるなんてオレは動物か…)
動物に失礼なことを思いながら、背を向けた彼女にそっと近づいて抱いてみた。

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