やなまか

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10/19/2023, 1:48:25 PM


父親は昔ながらの人だった。母は居ない。だけど子供は女1人の男4人の大家族だった。

「図体ばかりでかくても子供だな。お前はまだ中学生なんだぞ。命を預かることをなんだと思ってるんだ! 帰ってきたとたんに猫を飼いたいだの世話をするだの…ふざけておるのか!」
父には手を上げられたことはないが、厳しくしつけられた。
兄弟も誰も父親には歯向かわなかったし、全員食いっぱぐれることなく育ててくれてた。だから末っ子のヒムも、絨毯の上で正座をして父の言葉に従った。昨日までは。
「でもよ…親父」
「猫も杓子もない!」
「その猫なんだけどよ」
1人掛けのソファにふんぞり反る父の膝には、その噂の猫が鎮座してあくびをしていた。

「飼わんとは言っとらん!!」
父はすでに子猫にめろめろだった。

姉は姉で「お父様。猫用のゲージ設置致しました」完璧に猫のスペースを管理し、
兄は兄で「猫用のご飯を飼ってきたぞヒム。写真みせたら2ヶ月ぐらいだろうと言うことだったので柔らかい物を勧められた。チュールも買った」得意の俊足を生かしてスーパーまでひとっぱしりしてきてくれた。

「なんなんこの家!!!」
ヒムは温かすぎる我が家に涙して顔を覆った。


10/18/2023, 2:32:39 AM

人の命の輝きとはなぜああも圧倒的なのか。
人が光に飲まれる光景と、周囲を吹き飛ばす爆発のような衝撃波。生涯忘れたくても忘れられないだろう。
「いい天気だ」
陽気なヒムが気分を紛らわそうと話しかけてくれる。
メルルは隣で座り込み静かに聞いていた。
「なぁメルル。オレは世界一丈夫な素材ときてる。どんな大岩でもどんな呪文でも…いやメドローアは勘弁だが。人間ほどダメージを食らわねぇぜ」
それはメルルも分かっている。分かっているのに。過度に心配してしまって申し訳なく黙っていると…彼が太陽のように笑うのだ。
「それでも無茶するなと…毎回叱ってくれや。オレはもう1人の身体じゃねぇから。熱くなるとついつい忘れちまう」
「はい」
「あと。信頼してくれよな」
信頼…。メルルは大きな瞳を上げる。
こんなに真っ直ぐに人間のことを愛してくれる人を私は知らない。メルルはにっこりと笑う。
「してます。世界一」
すげぇな、世界一かよ。彼は子供のようにはにかむ。
「急ぐぞ。昼飯までには次の町にいこうぜ」
太陽の光を反射する手が差し出される。手を添えると力強くぐいと引っ張りあげてくれた。

10/16/2023, 7:28:13 PM

雨上がりの渓谷で、メルルの回復魔法の柔らかい光が辺りを照らしていた。
ヒムのひび割れた腕を治している。
「ポップやマァムのとは違うな」
メルルが目線だけ上げてきた。可愛い眉が寄せられている。ヒムの腕はむくむくとスライムのように治っていった。
「ポップさんやマァムさんに治して欲しかったらそうしてください」
「なんか怒ってる?」
「怒ってます」
「なんでだよ」
なんでだと言ってからなんとなく分かった。別の人の名前を出したのが悪かったのか。
「違います!無茶しないで欲しかったんです!」
こちらの心を読んだように叫ぶ。もしくは本当に読んだのか…
「しない訳にいくか。何のためにオレが居るんだよ」
傍には落石が転がっていた。メルルに当たっていたら命はなかった。彼女を庇うようにヒムが飛び出したのだ。
ヒムは泣き出した彼女に戸惑う。目の前で命を投げ出されたようで恐ろしかったのだ。治療の光が止む。
「もっと次からは別ルート行こうな」
「はい」
涙を恥じて目元を拭う彼女はもうてきぱきと散らばる荷物を片付け始めていた。

10/15/2023, 3:01:05 PM

村の集会所にメルルは呼ばれた。
一部の人は酒盛りを始めていた。
「あの…」
入ったとたんに人達が恐ろしい目付きをしながら、占い師の少女を糾弾し始めた。
「そもそもこの娘の言うことが嘘だったんじゃないか!?」
「そうだ!災いと言うのもこの娘がし仕組んだのではないのか!」
とんでもない濡れ衣だった。だけど…
「この娘の連れている魔物のような男を見たか!どう見ても人間じゃなかった」
それの仲間なんじゃないか。
酒を飲んだあとは本性が出ると言う。だけどこれではあまりにも…

山奥の村は野生に戻りつつある魔物に苦しめられていると聞いた。城で依頼を聞き、メルルはヒムと長い旅の末やってきたのだ。滞在も二週間目。襲撃をピタリと当てると、はじめは感激していた村人も、次第に不審げになっていった。

「黙って聞いてればお前らはよ!」
ヒムが我慢できずに出てきてしまった。当然、村の女達は悲鳴を上げ、子供達は親の後ろに隠れる。泣き出す子もいた。
「ほらみろ!とんでもねぇ目付きだ!おっかねぇ」
「んだとコラ…!!」
「ヒムさん…!」
彼を止めようと、メルルがおどりでる。
そんな彼女を乱暴に抱き寄せると、鋭い目付きで人間達をねめつけた。
「オレ達はなぁ、お前らを助けようと旅をしてきたんだ!わざわざ来るかよこんな所!オレに言えばいいのに、なんで同族のメルルに言うんだよ!!」
オレの好きになった人間はこんな生き物だったのか。
怒りが失望になり、涙に変わった。それがメルルには痛いはど伝わった。
「ヒムさん、言わせてしまってごめんなさい…。私が、私がいけないんです」
「んな訳あるか」
「人は臆病な所もあるんです…」
あなたに、こんな目をさせてしまった。
抱き寄せられたまま、メルルの細い手がヒムの顔を触れ、唇を撫でた。そして頬に流れる涙をぬぐう。
「人の恐怖の増幅を私は知っているのに。私はあなたに頼りきっていたんです」
人を助けたいというわがままをどうか許して。とても優しい人に涙まで流させてしまった。
「お前が望むなら。オレはお前の剣となり、盾となる。言ったろ」
人間を好きになったのは…オレの勝手なのだから。
そっと額同士を合わせる二人に、村人達は立ち入れない空気を感じ押し黙っていた。



10/14/2023, 11:44:42 PM

野菜が高い。そのネタでいこうかと思ったけど。空でも飛ぼうかと思ったけど。

※ ※ ※

大好きな人の大きな手であちこちじっとりと撫でられて、身体中が敏感になったみたい。
首筋に落ちる吐息さえもドキドキと胸を高鳴らせる。
「メルル…」
名前を呼ばれて「ここがいいのか?」と問われ、もう耐えられなかった。
「あっ…」
「そんな声だすな」
出すなと言われても困る…。ヒムのまさぐる手が少しずつ高く上がってくる。ぎしりと乱暴に腰を掴まれたら、もう我慢なんて出来ない。
「もっと、お願いします…っ」
「おねだりが上手いな」
「意地悪しないで下さい」
「してねぇよ。気持ちよくしてやってるだろ」
恋人は、気持ちいいのと痛いの間をふわふわと加減して攻めてくる。
「人間ってのは厄介だな…」
「…んっ…」
口を閉じても声が漏れてしまう。気持ちいいのだ、たまらなく。メルルはそのまま彼の優しい指に身を委ねた。

「まぁ草むしりなんてほどほどにしろ、オレがやってやるから」
「ヒムさんだと切らなくてもいい木やハーブまで切っちゃうじゃないですか!この間はミントだから良かったものの…」
ヒムはお叱りの声を聞き流す。
ミントなどのハーブ類は丈夫だからまた生えてくる。問題は、彼女お気に入りの沈丁花を抜いてしまいそうになったことを言っているのだ。
ヒムは取りあえず、ようやく覚えた力加減を駆使して、彼女の凝り固まった背中を撫でていた。



※ ※ ※


ほぐすという言い方から「もみもみ・ごりごり」するほうが効くと思いがちですが、優しく撫でる方が一番凝りには効くそうな。でも気持ちいいのには抗えないですよねぇ

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