そういえば小学生の時、2分の1成人式で私は
「太陽のような燃える心で、みんなを笑顔にする人になる」と将来の夢を語った。このクサい台詞は同級生の男子たちにからかわれたなぁ。その度に怒って彼らを追いかけ回す私も幼かった。
あれから月日は流れ、私は高校で失敗し、少し大きな病気を患い、辛い別れも経験した。あの頃豪語した「太陽のような燃える心」を志す気力はもう無い。まず病気のせいで燃えるような生活は出来ない。
そして、思えば、あの頃とは世界の見え方が何もかも違う。
あの頃は光だけが見えていた。
今なら……かつては見えなかった陰も見える。
物陰や木陰があってこそ、陽は輝きを増す。
今の将来の夢は何かと聞かれれば、こう答えよう。
燃え盛る太陽のような人にはなれずとも、時に陽だまりのような暖かさを、時に木陰のような涼しさを与えられるような、そんな人になることだと。
何も出来ない一日。時々鼻をかみ、水を飲み、後はひたすらスマホをいじるこの怠惰な様。どこか出かければ良かったかな。友達に連絡してみても良かったかも。でも、出かけたところでどこへ行けばいいんだ。ショッピングを楽しもうたって、買って得られる幸せにはもう飽きが来てる。人に連絡したって、ここしばらく誘うのは自分からばかりで、友達の方から連絡が来たのはもう何年前だろう。行き場なんてどこにも無い。手を差し伸べてくれる人もいない。私は間違ってない。こうして終わりの見えない憂鬱と孤独に身を沈ませて、また代わり映えのない今日にさよならして。いつまで続くんだろうねこの人生。
小学生の頃、朝の会で歌ってた歌を思い出す。
「涙を拭いて 空を見上げて 君のほほえみが 世界を変える スマイル♪」
その時は何も考えず歌ってたけど、今になるとそれがどれ程難しいかよくわかる。拭っても拭っても零れ落ちてくる涙もあるし、涙が止まった後は、消えない疲れと感情を抱えるのに精一杯で空なんか見てる余裕は無い。そうしてこの状態で笑ってたなら、それはもはや精神崩壊してるんじゃないか?それとも歳を重ねて強くなれば、そんな風に、めげないアニメのヒーローのようになれるのだろうか。
そもそも自分は笑顔が上手では無い。楽しくもない時にニコッて笑うことなんか出来ない。接客用のスマイルも最近覚えたばかりだ。それもまだぎこちない。
だからこそ、いつでも笑顔で誰にでも優しい人が不思議でならない。ああいう人たちは、一体どこからそんなエネルギーが出てくるんだ?こちとら口角を上げることすら意識しても上手く出来ないのに、あんな自然な感じでニコニコしてて、まるで別の人種みたいだ。
笑顔作りが得意じゃないっていうのもあってか、笑顔を強要してくる人は好きじゃない。ましてや「女の子は笑顔が一番♡」なんて言葉はクソ喰らえだと思ってる。でもそうじゃなくて、いつもスマイルでニコニコしてる人は、やっぱり素敵だし、私もいつか、あんなに自然で綺麗な笑顔じゃなくとも、そういう人に近づけたらと思う。
一見普通の人間でも、倫理や秩序を最重要視するイイ子ちゃんでは無いので、私とてどこにも書けないこと、勿論ここにも書けないことはある。少し犯罪に触れそうなことをしたとか、倫理的に良くないことをしたとか。悪い事だと自覚してはいるが、しかし法律や倫理だけがこの世のすべてでは無いだろう。法律も倫理も、人類が最低限の安全や生活を手に入れる上で非常に大切なものではあるが、かと言ってそれらにガチガチに縛られた世界というのも面白味に欠ける。誰かの人生をメチャクチャにしたとか、生物の尊厳を完全無視したとか、そういうのじゃなければ多少は緩く生きても良いんじゃないかな、なんて思っちゃう。私の場合、これは完全に言い訳だけどさ。
まだだ。まだ乗るべきではない。
日も登っていない、なんでもない早朝。時計の針がやけに響く静かな駅にて、僕は物陰に身を潜め、じっとその時を待っていた。
待っているのは、目の前の列車が動き出す時。上手く列車に乗れれば、目的地までの距離がウンと縮まる。列車は一日一本のみだから、失敗すれば、また明日までこの異臭が漂う茂みの上に拘束されることになる。
周りを見渡すと、僕と同じ考えを持っている人が何人、いや何十人もいるようだ。そしてそんな僕たちを好き勝手させまいと、列車の周りに待機している警官たちもいる。
確かに僕たちがやろうとしていることは無賃乗車、果ては他国への不法侵入だ。法律上は良くないことをしているのはわかってる。それでも疑問は拭えない。どうして僕たちはこんな風に妨げられなきゃいけないんだろう。僕はこの警官たちのような裕福な家庭に産まれなかった。お母さんは「一年だけ」と出稼ぎに行き、もう五年も戻ってこない。手紙も仕送りももう来ない。他の人に頼ろうにも、村の人たちだって自分たちの生活で精一杯で、僕たちに手を貸す余裕も無い。僕たちにはこうするしか選択肢は無かった。法律なんてものは、僕たちのような貧乏者の為には創られてはいない。生きたいならば自分で動いて、どんな手段を選んででも、この手で掴み取るしか無いんだ。
不意に列車がガタンと音を立てた。ブレーキが外れた合図だ。物陰から現れ列車に走っていく周りの人たちに続き、僕も走り出す。警官たちは、最初はひとりふたりと追い返していたが、まもなくして数に押し切られ、もうどうすることも出来なくなっていった。
僕は足を滑らせないように列車のハシゴに手をかけ、思いっきり体を引き上げる。上手くいったぞ!
乗り遅れた人たちの叫びや嘆きなど知らんぷりして、列車はたちまちスピードをあげていく。
僕は列車の屋根に腰掛け、大の字に寝っ転がり深呼吸をする。警官に武力で追い返されたり、飛び乗るのに失敗した人たちの号哭が未だ耳の奥で響いている。
この先もこれくらい、いや、それよりもっと酷い景色を見るかもしれない。それでも僕は、行かなくちゃいけないんだ。ただ普通に、生きる為に。
これはたった今、地球の裏側で実際に起こっている話。