sibakoのおさんぽ🐾

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2/25/2023, 6:57:14 AM

お題【小さな命】

今日は歳の離れたお姉ちゃんの出産日だ。
私はずーっと、先週からドキドキしている。
お母さんもかなり心配らしく、さっきから電話の前を行ったり来たりしている。

prrrrrr......

お母さんは急いで電話に飛びついた。
「香奈、お姉ちゃん、無事出産できましたって。」
嬉しそうに、お母さんが電話をしながら教えてくれる。

「ねえねえ、男の子? 女の子?」
私はお母さんの周りをうろちょろしながら聞いた。

「咲、香奈が男の子? 女の子? だって」

私はわくわくして返事を待った。
お母さんは、待ちきれない私を見てクスクス笑いながら私を見て聞いた。
「どっちだと思う?」

「じゃあ、男の子?」

「本当に?」

「え、女の子?」

「それでいいの?」

「もう、焦らさないで!」
お母さんはまだクスクス笑っている。

「もう! 受話器かして!」
私はお母さんから受話器をとって、お姉ちゃんに直接聞くことにした。

「お姉ちゃん! どっち!!」

「男の子」
笑いを堪えるような声でお姉ちゃんは答えた。

「えーっとねぇ、じゃあ、名前は?」
私は気になってたくさん質問した。

「優しいに真って書いて、優真」

「優真くんか......」
可愛いんだろうなぁ、そんなこと話考えていると、

「じゃあ、今日から香奈は優真の“おばさん“だね」

と言われた。
ニッシッシ......と意地悪く笑うお姉ちゃんの顔がありありと想像できた。

「な、酷い! 私、お姉ちゃんより8歳も若いのにー!!」

「優真〜、香奈おばさん怒ってて怖いね〜」

「ちょっと、お姉ちゃん!?」

「「っ、あははは......」」

耐えきれず二人で大笑いする。お腹を抱えて笑う娘を見て、お母さんも微笑む。

「香奈、そろそろ、電話終了ね。咲に悪いから。来週、会いに行く時に続き話したらいいでしょ」

なかなか終わらない二人を見かねて、お母さんが声をかけてくれる。

「だね。お姉ちゃん、また来週行くから! 優真くんも、来週、”香奈お姉ちゃん“会いに行くからね〜」

また明るい笑い声がした。

じゃあね、と私は電話をきった。

ああ、はやく会いたいなぁ。

2/23/2023, 2:22:27 PM

お題【Love you】

私には、好きな人がいる。高校2年生で一つ年上だけど、静かで優しい図書委員。入学して次の日、図書室に早速行った私は、彼を見て固まってしまった。いわゆる一目惚れだ。

毎日、図書室に通って話せるのは貸出の時だけ。そんな貴重な時間でさえ、緊張して口をぱくぱくしてしまう。一ヶ月通い詰めて少しなれたとはいえ、聞けたのはやっと名前だけ。

「山谷 心也」

それでも私には大きな進歩で、忘れないように忘れないようにとずっと頭の中で名前を繰り返していた。

それから特になになにも進展のないまま一ヶ月が過ぎてしまった。彼とは何とか会話できるようにはなったが、彼は本のことしか話さない。もちろんとても面白くて好きなのだけど……

それでも通い続けたある日。
珍しく彼が
「これ、家で読むの?」
と本の内容以外のことを聞いてきた。本のことには変わりないけれど、「この作家さんは......」「このシリーズは......」ばかりの彼にとってはとても珍しいことだった。

「えーと、はい、そのつもりです、けど......」
急すぎて少しあたふたしてしまった。

「そっか」
彼はそういうと、はい、と本を差し出した。
受け取ってもなお、私はキョトンとしていた。

キーン コーン カーン コーン

予冷に私はハッとして本をカバンに入れた。私はペコリと会釈して、急いで教室へ帰った。
(聞けばよかった......)
その日の午後は、彼のことが気になって気になって、授業どころではなかった。

家に帰ると早速借りた本を読むことにした。
本の題名は『こころ』
夏目漱石の代表作の一つだ。
本を開くと

はらり、、、

一枚の紙が落ちた。

『月が綺麗ですね』

綺麗な文字でそう綴ってあった。
私にはピンときた。

夏目漱石で、この文。
夏目漱石が訳した話のように、きっと彼は

『I Love You』

と伝えてくれたのだと。
私はすぐさまメモとペンを用意して

『死んでもいいわ』

と綴る。二葉亭四迷が訳したように。

明日返しに行こう。このメモを挟んで。



ーーーーーーーーー 10年後 ーーーーーーーーー

あの後、私たちは晴れて付き合うことになった。彼が私のメモを見つけて泣いたのは驚いたけれど。

そして今、私はウエディングドレスを着ている。
彼もかっこよくタキシード姿だ。
相変わらず優しく少しロマンチストな彼が今も大好きだ。

「これからもよろしくね」
「こちらこそ」
私と彼は微笑みあった。

2/22/2023, 1:07:53 PM

お題【太陽のような】

私は吹奏楽部でバスクラリネット(バスクラ)というクラリネットの低音域の楽器を吹いている。しかし、ずっと裏方で、低音に飽きてしまった。

「メロディ吹きたーい!!」

私が嘆くと同じく低音楽器のバリトンサックス(バリサク)の紗英が「わかるー」と同意した。

「次の曲、ソプラノ(ソプラノサックス)にはソロあるし、アルトにはカッコいいメロディあるのに私たちは裏で“きざみ&のばし“だよ!? 理不尽だぁー」

どうやら私だけの悩みではなかったらしい。
すると、紗英の声が大きかったのか、彩芽先輩が「なになに、どうしたの? 私も混ぜてー」と自分のチューバを担いで、えっさほいさとやってきた。もちろんチューバは低音楽器だ。

「高音楽器がずるいって話してたんです。なんだか低音って、地面って感じじゃないですか。ずっと上の生き物支えるの疲れったっていうか、飽きたっていうか...... だって、他のサックスカッコいいところだらけですよ!?」

紗英が熱弁する。生き物というのが、アルトやソプラノのような高音楽器のことなのだろう。全くその通りだ。彩芽先輩も、同意してくれるだろうと思っていた。しかし、先輩は首を傾げ、話し出した。「もちろん、基本低音楽器は地面で支えなんだけど......」

「私はね、低音って『太陽のように』なれたらなって思うんだよね。周りを照らして包み込む太陽。時には裏から星々を輝かせ、時には蝶々にスポットライトを当てる。バリサクもバスクラもチューバもユーフォ(ユーフォニアム)も...みーんなで力強い太陽。なくてはならない、というより一番大切なポジション!!」

彩芽先輩は「ね? 低音も悪くないでしょ?」と笑った。


そっか、『太陽』か......


私も紗英も自分の楽器が少し好きになった。

いつか、揺るぎない太陽に。
やる気を無くしていた私に一つ目標ができた。